オーディスワイアの告白
「オーディスワイア、あなたは──。あなたは、いったい何者なのですか?」
その言葉からは俺の素性について、はっきりとした認識があるのだと窺わせた。彼女がウンディードまで出向き、女神アリエイラとの謁見で何を聞いたかは明白だ。
まあここで、人間個人が「何者であるか」などという、哲学的問題提起について語って聞かせ、煙に巻くつもりは無い。
「女神アリエイラから聞いたのなら、それ以上に付け加える事は無いな。フォロスハート……いや、この混沌に包まれた世界とは異なる世界からやって来た。その事に間違いは無い」
俺がそう認めると、レーチェは固い表情のまま頷いて見せる。
「そうでしたか……。しかし、元居た世界に戻りたいとは……考えませんでしたか?」
その言葉を受け、改めて過去と、現在に渡る記憶を探ってみたが、やはり答えは決まっていた。
「いや、全然」
「生まれ故郷なのに?」
と、彼女はさらに尋ねてくる。
「生まれ故郷なのにと問われると、少し考えるな。俺は向こうの──俺が居た世界の自然は好きだったから。だが、その気持ちは、今はこちらの世界──フォロスハートの自然に向いているから平気だ。今ではこの大地が、第二の故郷だと思っている」
俺の回答を聞いたレーチェは少し、ほっとした様子を見せる。
どうやら彼女は、俺が異世界から来た人間だから信用できない、と疑っていた訳では無く。
故郷を懐かしく思って、いずれは帰ってしまうのではと、不安を感じていたらしい。
「ま、そういう訳だ。……それに、神アリエイラから聞かなかったのか? 俺は、元の世界に戻そうと言ってきた女神の提案を蹴って、今ここに居るんだぞ」
「それは、聞いていましたが……。本人の口から、はっきりとした言葉で聞かないと、安心できないじゃありませんの」
などと言う。
異なる世界の女も、元居た世界の女と同様に面倒臭いな。
さすがにそう口にするのは止めたが、それについては思い当たる事がある。
「どうしました? 急に真剣な表情になって」
「うむ。お前が『はっきりと言葉で言ってくれないと』などと、面倒臭い女丸出しな事を言うもんだから──」
しまった、うっかりと口に出してしまった。
不安そうな表情をしていた彼女の眉が、キリキリと吊り上がっていく。
「ま、まあ待て。──あれだ、ほら。俺の居た世界と、こちらの世界に大した違いは無いって事さ。こちらの世界の女も、向こうの世界の女も、どっちも面倒臭いっていう共通点が……」
「面倒臭くて悪かったですわね」
あわわわわっ、つい口に出してしまった。
他の事を言おうと思っていたのに!
「違う、今のは──あれだ。そう! 口が滑ったという奴だ。……つまり、俺が言いたかったのは、向こうの世界の象徴が、こちらの世界でも通用する──という事について言いたかったんだ」
すでに怒り出しているレーチェだが、彼女は学術的な事に興味を持つ側面もある。
予想通り、象徴がどちらの世界にも共通する部分があると聞いて、それはどういった象徴が共通して居るのか、二つの世界に共通する部分があるのは何故だと思うか、などと尋ねてきた。
「うん、それはだな──」
俺は自分の考えを述べた。
それは、人の「意識」といったものの構造が同じだからではないかと。人間の精神的な作りが一緒なので、異なる世界であっても、その意識と無意識に展開する「象徴」という隠された「言語」が似通うのだと説明する。
「それに、この二つの世界が、まったくの別物であるとは言い切れない。何故なら、結局のところ俺がここに居るからだ。神アリエイラの力が作用したとしても、そもそも繋がりの無い世界だったら、俺がこちらに召喚される事は無かったはずだ」
そうした言葉に彼女は「なるほど」と相槌を打ったり、「確かに」と頷きながら話を聞いている。
チョロいな……そんな風に思っていたが、彼女はこう言って締めた。
「人の基本的な精神構造が似通っているから、面倒臭い部分も同じ、という事ですわね」
俺は乾いた笑みを浮かべつつ、迂闊な発言を謝罪するに至った。




