怒り
タイトルは「逆鱗」と迷いました、この時の怒りは実はオーディスワイアだけの怒りではないのです。
それは次話で分かります──たぶん。
「今回、ユナから聞いた事を話すとこうなる。第八小隊の先輩から、魔晶石と四つの精霊結晶を渡されて、母親の形見の腕輪に『四大精霊の加護』を錬成する事を命じられたと。それは形見の腕輪を失うかもしれないという、少女には厳しい内容のものだったが、それくらいの覚悟を示さなければならないと強要に近い言葉を言われたのだ。彼女は何とか腕輪を失わないよう仲間からも知恵を求めた時に、俺の名前を聞いたらしい──絶対に錬成を失敗しない錬金鍛冶師──などという到底あり得ない異名を付けられていたようだが」
俺がこう言うと、驚いた事に笑ったのは巫女の側に居た火の神ただ一人(一神)だけであった。彼女は声にならないといった感じで身体を揺らし、口元を押さえてまだ笑っている。
「ともかく俺は彼女の頼みを受ける事にした。あり得ない事だと君等は思うだろうが、俺はその時に四大精霊──あるいはその神の声を聞いたのだ。『やれ』と。心の内側に錬成を失敗せずに行えるという確証が沸き起こるのを感じた俺は、錬成を行い、昇華錬成という俺の力のみでは成し得ない奇跡が起こるのを目の当たりにした」
ここまで言うと俺の中に沸々と沸き上がってくる感情が渦巻き始めた。
「はっきり言ってやる。ユナに形見の腕輪を失わせる為に『四大精霊の加護』という、特殊強化錬成をしろとそいつは言ったのだ。ただの嫌がらせ、悪意に満ちた虐めに過ぎない。
それが何だ? 銀の腕輪が失われず戻ってきたと思ったら、昇華錬成で強化されユナは昇格、それが耐えられなかったんだろう。恥知らずにも今度は銀の腕輪に施した素材は自分達が用意した物だから、それは我々の物だだぁ⁉ ふざけた事をぬかすのも大概にしろよ、この薄汚い野良犬共が! 剰え昇格した先でも腕輪の所有権を主張して、彼女から腕輪を取り上げようとしただと? 貴様等には恥を知るという頭が無いのか‼ 火を司る神の前で、無礼を承知で申し上げるが、この様な連中と、命を賭して探索に行く者を同じであるなどとは決して思って欲しくはない!
私が助力し、力を貸したいと思う者達は、この様な恥知らずな者達では断じて無い‼」




