混沌に関する指南書の作成
翌日は新人数名に「海の中の島」で魚介類を捕ったり、俺の注文で「海藻」を取って来るよう指示を出しておいた。
鍛冶屋に行くと、徒弟が作った新人用の武器や防具を鑑定する。かなり優秀な武具を作っていて驚くと共に、こちらもやる気になってくる。
昼前に何件か来た強化依頼は、他の都市の上級冒険者からの依頼だった。
最近は市外からの仕事の依頼も多いのだ。
上級冒険者の難しい依頼は俺がこなし、その他の作業はケベルとサリエに任せる──、彼らも元々の才能や技術が高かったとは言え、短時間でここまで正確に、確かな技術で武具を打ち出せるほどになるとは。
感心すると同時に、対抗心を起こさずにはいられない。
こちらも上級冒険者から受けた依頼を、目標の数値以上の成果を出して終える事が出来た。
時間に空きが出来ると、リゼミラから渡された二本の剣に、「対混沌攻撃力」を付与する作業を試みる。
かなり多くの強化を施した剣に、強力な新しい効果を付与する追加錬成だ。失敗し易い。
集中して行う事が大事になる。
しかし、こう言うではないか。
「失敗は成功の母」と。
俺は、何度も失敗を経験している。
──リゼミラの剣に「対混沌攻撃力」を付ける事が出来た。──二本共だ。
まだこの特性に、どういった素材を付け加えて錬成強化するといいか、などの研究を続けなくてはならない。
鍛冶の仕事の合間に、混沌結晶の分解方法や、分解して得られる物質、または脳に入り込む微粒子の取り除き方などを記した、錬成指南書を書き始めた。
対混沌攻撃力の付与について、混沌そのものについての私的見解なども付け加えて、一冊の薄い冊子分の原稿を書く。
例によって、試しに「対混沌攻撃力」を付与した長剣も持って、管理局の技術班に、この新たな情報を提供する事にしたのだ。
この錬成を行う事で、城壁などの上部に設置された弩砲などにも応用すれば、混沌が侵攻して来ても、以前より格段に迎撃し易くなるだろう。
「混沌結晶に、そんな利点が……!」
新しい錬成指南書を読んだメリッサが、(簡単な修正を加えながら)興奮気味に口にする。
「さっそく、この原稿から冊子を作ります。ありがとうございました」
彼女はそう言うと部下を呼び、すぐに錬成指南書を刷って、各都市の錬金鍛冶屋に配布し。都市を防衛する兵士らにも、この情報を伝えるようにと言い渡した。
「今回の情報は、今までの『新技術開発報酬』と同じ五年間。毎月一万二千ルキに加え、『混沌領域の発見』としてさらに、二万から三万ルキほど増額されるでしょう。私が上層部に掛け合ってきます」メリッサは、そう請け負ってくれた。
「それは助かるが──、それよりも、管理局側の方で混沌結晶を分解し、研究する班を作ってくれないか? その班が分解した物を販売するようにすれば、混沌結晶の起こす『意識侵蝕』の危険を減らせるだろう」
彼女は「確かに……」と納得しながらも。
「しかし、この頭の中に入り込んで『意識混濁』を引き起こす、『混沌微粒子』というのが怖いですね。『混沌吸着結晶』で取り除けるという事ですが──」
それも含めて、分解には危険があるかもしれないので、管理局の専門家に分解を依頼したいのだと言うと、彼女は大きく頷く。
「分かりました。開発局と『混沌調査班』の双方から人員を出すよう依頼してみましょう」
「対混沌攻撃力」を付与した長剣や、混沌結晶を分解した物を資料として提供すると、その分の多額の報酬を貰う事が出来た。
おそらくだが、『混沌調査班』は、今回の混沌結晶から得られる発見を元にして、さらに混沌を排除する発見をするだろう。
彼らは神々の協力も得られるらしいから、より一層。神々は混沌に対する抵抗力を手に入れられるはずだ。
「敵を知り、己を知れば、百戦殆うからず」という奴である。
技術班内も、新しい指南書から得られた情報と発見から、慌ただしくなり始めたので、俺は鍛冶屋へと戻る事にした。
鍛冶屋に帰ると、ケベル達が仕事の依頼品を点検して欲しいと言ってきた。彼らの錬成技術は、俺が教えたやり方を守り、錬成台に描かれた図形の意味を理解して行われていた。
こうする事で、錬成結果は安定し、より良い錬成効果が発揮されるのだ。
「うん。いいぞ、ちゃんと目標数値を超えているな。上出来だ」
こうして二人の徒弟も着実に、俺の弟子として成長を続け。
俺自身もまた、彼らから影響を受けて、より深く、錬金鍛冶師としての腕を磨き上げる事が出来たようである。




