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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第七章 方舟大地の未来

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考えるな、感じろ。……やっぱり考えろ。

 会議も終わり、それぞれの部屋へ戻ろうとした時になって思い出し、レンネルを呼び止めた。


「なんですか?」

「おう、これこれ、忘れるところだった」

 俺は物入れ(ポケット)から小さな水晶の装身具を取り出して、レンネルに手渡す。


「ああ、これは──回復魔法の効果を上げる錬成品ですか? ありがとうございます」

 少年レンネルは、まるで初めて贈り物を受け取った少女の様な微笑ほほえみを浮かべる。

「うん。それには魔力強化や魔力量増加なども付与してあるから──えっと……これだ。胸物入れ(ポケット)に入れたのを忘れていた」

 そう言いながら、胸物入れから鑑定書を取り出す。

 うっかりしていた、という風に言った俺に、レンは「ボケちゃったんでしょうか」と、割と真剣な調子トーンで言う。


「ひっでえなぁ……まあ、歳を取るごとに記憶力は落ちていくからな。──明日は我が身だぞ」

 若者レンは、あまり本気にした様子も無く「覚えておきます」と言って、装身具の礼を言って通路を歩いて行く。


「オーディス団長」

 猫の様子を見に行こうかとした時、急に背後からレーチェに呼び止められた。

「おわぁっ、──なんだ。脅かすな」

 振り返るとレーチェは一瞬、呆れた様な顔をしてみせたが、すぐに真剣な顔つきになって、明日は休みを頂きたい。と言ってきた。


「それは構わないが……随分ずいぶん、唐突だな。何かあったのか」

「ええ、まあ……でも、たぶん。そんな大事にはならないと思いますわ」

 彼女は何か、含みのある言い方をする。

「それなら、いいが……。俺の方も、鍛冶の仕事が忙しくなって来てな。仲間の装備品を強化してやりたいんだが、時間が足りない状態だ」

 彼女はそれを聞いて、何故かほっとした様な顔をする。


「そうですか、いえ。仲間の為にも頑張って下さいな。団長」

 そう言い置いて、彼女は自分の部屋へ戻ろうとし、階段前で猫に見られて、慌てて顔を背けながら二階へ逃げて行った。


 そう言えば、ライムは二階には近づこうともしない。子供達が真似まねをして、二階へ上がらないようにと、配慮はいりょしているのだろうか。

 あるいは、レーチェが居る二階には近づきたく無い。そんな風に思っているのかもしれない。


「ゥニャァ──」

 ライムは俺の顔を見るなり、いきなり不平を口にしたみたいな鳴き声を上げる。

 子猫達は巣箱の中で、一塊ひとかたまりになって眠っているが、彼らも数日の間に、かなり成長したように思う。


「なんだ、えさも食べただろう。何が不満なんだ」

 俺はライムを抱き上げてたずねたが、彼女はムスッとした表情でいるだけだ。

 巣箱の中に戻そうとすると、綿織物タオルと布が少し臭くなっていた。獣臭だ……あと、おしっこの匂いも混じっている。


「分かった、新しいのに替えてやる」

 下駄箱の横の棚には、猫の為の色々な物が入っている。そこから少し()()()なった布と綿織物を取り出して、古い物は洗濯に掛ける為、玄関に置いておく。


 巣箱の中に布などを敷いてやると、ライムが子猫の横を通って、ごろんと横になる。

 子猫達は気にしなかったのに、ライムが贅沢ぜいたくなのか、それとも子供の衛生環境に配慮したのか……? いや、それは無いな。単に臭かっただけだろう。


 ああ、そう言えば。炭から錬成する消臭剤を作ってある。それを猫の巣箱や便所の横にも置いておくか。

 そう思い。倉庫の中から、骨みたいな色と軽さをした棒を二本取り出して、猫の巣箱の近くに置いてやった。

 たぶん明日になったら、子猫達が玩具おもちゃにして、動かされてしまうだろうが。




 自室に戻ると、猫や女の気持ちを考えるのは難しいな、などと思ったが、それは感じる事であって、考える事では無いのかもしれない。直感的に分かる事が正解な場合もあるだろう。


 でも、安直に「これで大丈夫」とか思っていると、ぜんぜん大丈夫じゃない事も多々ある。


 特に若い時の、「自分は大丈夫」という根拠こんきょの無い自信や。

 何年も続けてきた事だからと、安心し切って油断を生み、とんでもない結果を引き起こす老人など。


 感じるだけでは、やはり駄目なのだ。

 昔の映画俳優は言った。


「考えるな、感じろ」と。


 それは嘘だ。

 いや、まったくの嘘では無い。もちろん直感に従って行動する事が、良い結果を招く事もある。

 だがそれは、咄嗟とっさにどうすべきかを判断するしか無い様な、そんな場面でのみ頼るべきだ。


 考える時間があるなら、直感に頼るのはむしろ危険だ。安易な決定で無様ぶざまさらしたくは無いだろう。


 適当な考えや、感情の勢いのままにやった行動で。──どんな悲劇や損失を招くか、「やってみなくちゃわからない」と言う奴は、はっきり言ってガキなのだ。

良く考えて行動しましょう。

バイトテロや、判断がおかしくなって逆走するような、そんな事をしでかす前に。

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