野良と神々と錬成品と
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管理局からの帰り道。路地裏に入った所で、茶色い毛並みの野良猫に遭遇した。
そいつは赤茶色の煉瓦を積み上げて作られた壁の上で、呑気に日向ぼっこをしていたのだ。
「おぅ、何度か見かけたが、こうしてゆっくり会うのは初めてだな」
俺が声を掛けると、壁の上で目を瞑っていた猫は、眠そうに目を開けて「ニャァ──ォ」と、やや不機嫌そうに鳴いてくる。
頭二つ分くらいの高い壁の上に居る猫と見つめ合う──いや、猫の方は睨んでいるのかもしれない。
だが茶色い猫は目を閉じると、そのまま壁の上で眠る事にしたみたいだ。
あまりしつこく声を掛けると嫌われるだろうから、その場は立ち去る事を選んだ。煮干しでも持っていれば餌を与えてやるのだが。
猫は焔日に背を向け、眩しい日の光を避けながらも、ぬくぬくとした陽気を浴びてくつろいでいる。
宿舎や鍛冶屋から、そんなに遠くにある訳では無い。
歩いて数分の所で日向ぼっこをしているのだ。
餌でも持って行ってやろうかな……
そんな風に思い始めた時、近くの建物の玄関が開き、中から老齢の──おばあちゃんが出て来て、手にした金属の器を匙で叩き始めた。
すると先程の猫が壁から降りて来て、そのおばあちゃんの足下に駆け寄って行く。
食事を与えてくれる人物だと、理解しているのだ。
玄関先の石畳の上に皿を置くと、猫は待ってましたとばかりに皿に顔を近づけて、くんくんと匂いを嗅いで食事を食べ始める。
「今日は海の魚が手に入ったからねぇ、初めて食べる味だろぅ?」
おばあちゃんが声を掛けながら頭を撫でると、猫は「うにゃうにゃうにゃ……」と変な鳴き声を上げて応えている。
帰り道から少し外れるが、裏通りにある小さな公園に行ってみる事にした。本当に小さな公園だ。鉄棒と雲梯が設置され、備え付けの長椅子と、数本の灌木が植えられた公園には誰も居ない。
その長椅子に腰掛け、水中呼吸について考えていたが、ふと、アディーが言っていた事を思い出した。
「水圧は『防御魔法』で対応可能って、つまり。身体の周囲を障壁で囲んで、水に濡れない訳か? そうすると、魔法で海水から空気を取り出せる物を作れば──」
そう考えたが、魔法はそうした変換をする魔法と、防御などの展開した魔法に、別の機能を加えるのは向いていないらしい。
俺は魔法の研究者や、新たな魔法を生み出す開拓者でも無いので、正確なところは分からないのだが──
やはり錬成品で空気を作り出す方法を取る必要があるか……それは、難しい事では無い。
もう試作をしてもいいくらい、頭の中では完成型がいくつか思いついている。
なんなら水の入った瓶と、ある種の術式を組み込んだ錬成品を合わせるだけで、空気を生み出す事は可能だ。
だがそれだと、水を入れた瓶が邪魔になるので、冒険向きでは無いだろう。
水の精霊結晶と風の精霊結晶を使った物で作る錬成品なら、軽量な上に嵩張る事も無い。
問題は、前者の物よりも後者の方法で作る物は、費用が段違いに高額になる点だろう。俺はもちろん仲間の為に費用をケチって、重い水入りの瓶を担がせるような真似はしない。
「ニャァ──ぅ」
長椅子に腰掛けて考え込んでいた俺の足下に、茶色の猫が近づいて来た。脚に体を擦り付けて、もう一度、鳴き声を上げる。
こちらの顔を見上げると、長椅子の上に飛び乗って来て、俺の膝の上に前足を乗せ「ニャァ──」と鳴いて気を引こうとして来た。
「なんだ、お腹が一杯になって安心したのか」
先程は不機嫌そうな鳴き声を上げていたのに、猫とは本当に気ままな生き物だ。
脚の上に乗って来た野良は、そこに丸まって日向ぼっこを始める。
「おいおい、俺はこれから帰って、やらなきゃならん事が山積みなんだが」
ぼさぼさの毛並みを撫でつけてやると、野良は気持ち良さそうに眠ってしまう。
「仕方ない……少し眠らせてやるか」
俺は猫を太股に乗せて背中を撫でてやりながら、これから錬成する物について、細かい部分まで、どういった物を作るかを考え始める──
四大神の神結晶を置く台座。
それに付ける、神の力を増幅し安定させる錬成品。──作った事は無いが、やれると確信している。
何故なら、俺以上に四大神と密接な関わりを持っている錬金術師は居ないからだ。
その俺が、彼らの為に作る。
そうしなくてどうする。
以前の俺は神に疑いを抱き、世界の有り様を不快な気持ちで、傍観する事しか出来ずにいた。
俺がここフォロスハートに招かれたのは、水の神アリエイラの不手際では無い。
まして、向こうの神が、俺の事を不敬な輩だからと、俺を放逐した訳でも無い。
これこそ、運命というものだったのだ。
世界の機構としては、こちらの世界は文字通り崖っぷちの、不安定な基盤の上に建つ塔の様な物だ。
だが、それでも俺は、こちらの恐るべき混沌に包まれた世界の方が、遥かにマシだと思っている。
壊れかけた世界でも、その世界を大切に想い。力を合わせて戦って行こうという、人々の想いがある。それだけで充分だった。
自らの厚顔無恥な利己主義で世界を壊し、人々の関係を壊して喜んでいる連中の存在する地獄よりは、混沌に包まれた地獄の方がまだマシだ。
だからこそ、俺の力も俺の命も、この世界と、この世界の神の為に使う覚悟がある。
そして、その事が。俺に大きな自信と誇りを与えてくれるのだ──




