新人教育「覚悟と慣れ」
月曜日分として投稿──少し忙しいもので……
朝方から忙しい事になった。
「海の中の島」に新人達を送り込む事にし、革鎧や適当な武器を(念の為に)持たせて、冒険──探索に行かせた。
新人の中でも、しっかりとした技術や知識を持っている三名と、アディーディンクに、舟を使って他の島の探索をさせる事にしたのだ。
それは管理局からの依頼でもあった。
「昨日、管理局から話がありまして……」
今朝、アディーディンクは、そう告げてきた。
以前の仕事仲間経由で、管理局から転移門のある島とは別の島を探すよう頼まれたと言う。
それは別に正規の依頼では無かったが、アディーディンクの持つ「探知魔法」の効果範囲を知っている、かつての同僚がアディーを頼ったのだ。
かなり広範囲を調べられるアディーと、そこそこは戦えるであろう新人を探索に向かわせ、俺はリトキスからの相談を鍛冶屋で聞いていた。
「その、新人達の中でも、二人の新人は──何と言うか。覚悟というか、傷つく事を恐れていて、このままでは使い物にならないかもしれません」
戦士としての覚悟を持たせる為に、俺に協力しろと言うリトキス。
「うむ。戦士になる覚悟か……カーリアの時は外部から講師を呼んだんだが、今はお前が居るじゃないか。何故、お前が教えてやれない事を俺が教えてやれると言うんだ」
「何故って……そうですね。オーディスワイアさんは、初めの頃は色々と苦戦したそうじゃないですか。その辺の事を話した方が、彼らにも伝わり易いのではないかと思うんです」
どうも新人の二人は、攻撃される恐怖から、身体が思うように動かなくなってしまうらしい。
「ああ、そういう事なら、俺にも覚えがある。『覚悟』と『慣れ』だな、必要なのは。──分かった、少し話しをしに行こうか」
鍛冶屋での作業は徒弟達に任せ、仕事の依頼が片づいたら、新人達の装備を二人で協力して作るよう指示を出す。
*****
市外訓練場に居る新人達は、他の旅団の若手達と共同で戦闘訓練を行っていた。
戦闘訓練では新人の多くは、それなりの動きをして見せている。
問題は二人の新人だという事だが──、確かに、攻撃される瞬間に動きが止まっている。攻撃を受け止める事にばかり意識がいって、傷を負う恐怖が先行してしまい、身体が強張ってしまうのだろう。
俺は新人を呼んで一度、簡単な講義をする。
「攻撃を恐れているようだな」
新人の数人を前に、俺はそう切り出す。
「攻撃を恐れるのは、生き物として当然の本能だ。──恐れを抱いても良い、恐怖があると人は慎重に行動できるからな。だが、身体が硬直するなどの、意志を反映しない行動は『誤作動』でしかない。それは戦闘では、まったく役に立たないどころか、足を引っ張るだけの反応でしかない」
俺はそれぞれの新人の表情を確認する。
「俺も冒険に出たばかりの頃は、恐怖で身体が動かなくなる、そんな時もあった。だがな、考えてもみろ。恐怖で身動き出来なくなるなんて、それで攻撃を喰らっていたら本末転倒だ。自分で自分の首を絞める様なものだ。──だから、戦士になるには覚悟が必要だ覚悟を持って、痛みや恐怖を受け入れろ。そして戦いの中で自信を付ける事で、覚悟は自分の中に定着する。安易な言い方をすれば『慣れろ』という事だ」
慣れは油断を生むが、自信を持てないまま、まともに戦えないよりはマシだ。そう説明しながら。
「戦いに『慣れ』れば、恐怖は薄れる。恐怖が無くなると『油断』が生まれる。そうすると俺の様に脚を失う事になりかねん。いいか、戦いはそうした緊張の中で行われるものなのだ。覚悟を持ち、恐怖や油断に囚われる事無く、冷静に戦えるようになれ。痛いからと泣き喚いていれば、敵が見逃して去って行くか? そんな事は絶対に無い。──痛みを負う覚悟をしろ、戦いとは非情なものだ。覚悟が無ければ、生き残る事は出来ない」
新人達にどれだけ俺の話が伝わったか、それは分からない。年配者の戯言だと、簡単に(相手を見下して)答えを出す者は成長しない者だ。戦士や冒険者はおろか、大人にすらなれない。
痛みを負う覚悟が無ければ、俺も脚を失った時点で死んでいただろう。
脚を食いちぎられ、痛い痛いと転がり回って痛みが消えるか? そんな無防備な姿を晒せば、敵に「攻撃して下さい」と言っている様なものだ。
俺は脚を失った時、すぐに体勢を立て直し、片脚で何とか敵の追撃を逃れ生還した。
苦痛にも立ち向かえなければ戦士にはなれない。
それは戦いを求められる職業ならば、どの分野でも同じ事だろう。
強くなるには覚悟が必要なのである。




