「海」のある食卓
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混沌を討ち滅ぼす為の手掛かりを得た俺は、その後も出来うる限りの研鑽を重ねた。
短時間で、これだけの作業を展開した錬金術師がかつて居ただろうか? おそらくは居ないだろう。いや、居ない!
……まあ、事実はどうかなど、この際どうでもいい。
混沌についての──混沌結晶についての研究は、かなり進んだと言える。しかしまだ、この混沌結晶には、不明瞭な部分があるのだ。
まだまだ謎の多い。それ故に様々な可能性のある素材である。
いずれは誰か、俺とは違う視点を持った、研究熱心な錬金術師が現れてくれる事を祈ろう。
もちろん俺も時間があれば、混沌結晶の研究を引き続き行っていくつもりだが、まずは混沌を討ち滅ぼす武器の作製と強化を優先させる。
この日は黒銀鉄鋼の剣と、鋼鉄製の剣に「対混沌攻撃力」を付与した。
明日の冒険団員達に、ミスランの転移門で「混沌の」魔物などが出る場所へ向かってもらう。
この新たな武器が、その魔物に有効かどうかを試してもらうのだ。
混沌から生み出される魔物に利くかどうかが、冒険者の武器として重要になる。
夕暮れ時になると二本の剣を腰に下げ、宿舎に戻る。
玄関を開けて靴を脱いでいると、巣箱の中からライムが出て来て、少し離れた所から「ニャァァ──」と鳴き声を上げて、こちらの様子を窺う。
「ただいま。混沌の影響は取り除いたはずだぞ」
警戒しているライムの後ろに、子猫が一匹起き出して来た。青い毛の混じる人懐っこい子猫は、俺の顔を見ると「なぁぁ~~」と弱々しい鳴き声で出迎えてくれる。
そこへ、ライムと子猫の餌を手にしたエウラがやって来た。彼女が銀色の皿を手に近づいて来るのを見ると、ライム達は巣箱の近くで待機して、彼女が皿を置くのをじっと待つ。
「現金な奴らだなぁ」
俺が下駄箱に靴を置いていると、エウラが「お疲れさまでした」と労をねぎらってくれた。
「今日は本当に疲れたぜ。──エウラはミスランで混沌の魔物と戦うなら、どこがやり易い?」
唐突な質問に、彼女はう──んと、顎に手を当て、上を向いて考える。
「そうですねぇ……『暗黒の大地』だと、出現がまちまちですから──中級だと『峡谷の中の隠し神殿』でしょうか。あそこなら神殿内の迷宮で遭遇する確率も高いですし」
何でですか? と尋ねる彼女に腰の剣を見せて「この武器が『混沌の魔物』に有効かどうかを調べて来て欲しいからだ」と告げる。
エウラはその武器に興味を持った様子だ。
「また、面白い物を作り出したみたいですね。魔剣の修復といい、どれだけ前例を覆す気ですか」
俺は食堂へ行こうと声を掛けながら。
「前例はいつだって過去の物だ。新しい物とは、進化したいと望む心から生まれるもんだ」
食堂に行くと、リーファとレーチェが調理場から皿を持って来ていた。最近はレーチェも料理を覚えようと、リーファから食材の切り方から、味付けの基本までを教わっているらしい。
「そしていつでも、人は成長できるものなのだ……受け入れようとする事で。拒絶しかしない者は停滞する」
エウラはせっせと料理を運ぶレーチェを見ながら、「なるほど」と呟いて、自分も手伝いますと声を掛ける。
今日の食卓はいつもと違っていた。
「海鮮だな!」
肉料理と生野菜料理の皿もあるが、テーブルの上には様々な海の幸が並んでいる。
「新しい転移門の向こうには、豊かな自然の恵が溢れていました。陸地はフォロスハートより小さいくらいらしいですが。海は広大で、他の陸地が無いかと舟で探している旅団もあるみたいです」
リーファはそう言いながら、大きな海老を焼いたものを運んで来る
甲殻が青い色をした海老で、長い髭と大きな螯を持っている奴だ。
今は背中の殻を剥がれて、真っ白な身を見せている。
「美味しそうだ」
「海老は残念ながら一匹しか取れなかったみたいですが、エアネルとレンネルだけで、二十匹以上の魚を釣って来たんですよ」
蟹や貝などは、陸地の探索をしながら海岸沿いを歩いていた時に、ウリスやメイが見つけたらしい(貝はそれとなく砂抜きをして、明日にでも食べる事にする)。
リゼミラやリトキス達は、島の中にある背の低い山と、その周辺の森を探索して鹿や兎を見かけたと言っていた。
「肉食獣は居ないみたいですね。他の旅団とも情報を共有してみましたが、木の実や果物の生る木も多く。食材の宝庫と言った場所ですね」
リゼミラは不服な感じで、冒険できると思ったのに……と愚痴っている。
危険の無い冒険だって冒険だろう。
だが、この女にとっては、戦いこそが冒険。
強敵にも怯まずに立ち向かい、全力で叩き潰す。
それが、リゼミラという女が望む、心躍る冒険なのである。
久し振りに味わう豊かな海鮮の味。
俺以外の仲間達は、初めて味わう海の生き物の味である。
食事に満足した彼らに、混沌に対する攻撃力を上げた武器の試験を行う為に、明日は二人に剣を持たせて、混沌の魔物などと戦って来て欲しいと願い出て、エウラとカムイの二人に中級難度の『峡谷の中の隠し神殿』へ向かわせる事になった。
もちろん二人で行かせる訳では無い。
ユナとレーチェ、リーファにも同行させる。
中級の中でも危険な敵が出る場所だ。気は抜けない。
「対混沌攻撃力」の付いた武器を二人に渡すと、その説明をして、普段の武器との違いを報告するように頼んだ。




