アヴロラからの手紙
沢山のブックマーク、評価。ありがとうございます。
タイトル上部にある『方舟大地フォロスハートの物語』から《外伝》と登場人物の設定などが読めるものも投稿していますので、そちらも是非。
翌日から一時的に、混沌結晶の研究を中止させられた。
旅団員達にも説明をし、鍛冶屋の徒弟達にもレーチェが話して聞かせ、団長(つまり俺)におかしなところがあったら、旅団員に報告するようにと、厳命したらしい。
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こうして当分の間は、混沌結晶の研究を中止して、休息を取る事にした。
宿舎に戻った俺を見てライムは初め、凄く警戒していたが、威嚇する事は無く。うろうろと俺の近くを歩いた後、脚に擦り寄って、ライムの身体を撫でる俺の指をペロペロと、ざらついた舌で嘗めてくれたのである。
こうしてライムとの信頼関係(?)を取り戻し、俺は鍛冶屋で徒弟達に仕事を与えながら、頭の中でのみ、混沌結晶を分解した物を、どのようにして、使える錬成品に仕上げるかを考え続けていた。
ケベルとサリエは簡単な物なら、武器も防具も作れるだけの器用さを持っていた。敢えて教える事は錬成のやり方。
有効な組み合わせや、失敗し易い組み合わせなどを教え、導き、いち早く俺の行える、多くの錬成を教え込むだけであった。
彼らはここ数日も休み無く、空いた時間には錬成指南書と錬金叢書を調べて、自分で買った無地の帳面に、必要な部分を書き込む作業に没頭していたらしい。
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その日の午後に、ナンティルが大荷物を抱えてやって来た。
「やぁやぁ、お待たせしましたにゃ。新しく生まれ変わった『オーディス錬金工房』に、素材を届けにやって来ましたにゃ」
ケベルとサリエは、突然現れた猫獣人の行商の姿を見て驚いている。
それはそうだろう。ムキムキの大男が担いでいるならまだしも、細い身体の女が、大きな荷物を担いでいるのだから。
「おやおや、こちらはオーディスの弟子達ですかにゃ? どうぞご贔屓に。パールラクーンからの行商人。ナンティルですにゃ」
そう言って彼女は荷物を下ろすと、中から紫水晶の小さな原石を取り出して、二人に与えた。
「最初だけだぞ、無料なのは。気をつけろよ」
俺が徒弟達にそう言うと、ナンティルは「もちろんですにゃ」と潔い返事をし、「独立したら、ご贔屓にしてくれにゃ」と媚びを売る。
「おっとそうにゃ」と呟くと、ナンティルは木箱を取り出し、中から手紙を取り出した。
「アヴロラ様から書状を預かって来たにゃ。それにしても、あんなゃ杖を作るとはさすがにゃ」
ナンティルは「生命の杖」を見たと語る。何でも「控えの間」に飾られているらしい。
「神アヴロラ様を象った石像が控えの間に置かれて、その杖を持っているにゃ。贈り物に、そんな豪華な置き場所を用意するにゃんて、相当な力の入れようにゃ」
それは作った側からするとありがたいな。そう話すとナンティルは、神像の乗った台座に付けられた、板金に書かれた一文を読み上げた。
「フォロスハートの名工。錬金鍛冶師オーディスワイアの作りし『生命の杖』を手にする神アヴロラ」そう書かれていたらしい。
こそばゆさを感じつつ、アヴロラからの書状を読んでみる。
『美しい贈り物をありがとう
フォロスハートの勇敢なる戦士
強き魂を持つ戦士にして名工
離れた場所で生きようとも
あなたは私の子でもある
いつでも私を訪ねに来て下さい
朽ち、錆びる事なき命。その守り手。アヴロラより』
おやおや、またしても新しい母を見出してしまったぞ。
まあ、神々の考える「子」というものが、人間の考える「親と子」の関係で無いのは明らかだが。
それはともかく、精根込めて作った贈り物を気に入ってもらえて良かったと、心から思う。
ナンティルは「なにか良い事でも書いてあったかにゃ?」、などと俺の顔を覗き込んでくる。
「まあな。贈り物の意図を汲んでもらえて良かったよ。……それで? 今日はどんな物を持って来たんだ?」
彼女はにっこりと、営業微笑を浮かべると、荷物からいくつかの聖銀鉄鋼の延べ棒と、宝石の原石を取り出して見せた。
「さあ、今日はパールラクーンの転移門先から手に入れた、数々の商品を持って来ましたにゃ。どれでも好きなだけ買って欲しいにゃ」
「好きなだけ買えって……安くするなら考えてやらんでもない」
猫獣人の行商は肩を竦めると、「しょうがないなぁ……」と言いながら交渉を始めた。




