徒弟の武具作製と混沌結晶の調査
またちょっとシリアスな展開。
混沌がじわじわと侵蝕して来る。そんなイメージ。
翌日は鍛冶屋に行くと、徒弟達に武器を作らせてみる。──短剣に「硬化」と「劣化防止」を付与した物を打ち出す試験。
こうした訓練は、俺も初めの頃にやらされた。
金属から武器を打ち出す事をやり終えると、錬金鍛冶としての基礎を学ばされるのだ。
ケベルとサリエは基本的な知識と技術は、すでに身に付けている。
やり方も教え、何度も実践して見せているので、まずは作らせてみる事に。
失敗すると素材が失われる損害もあるが、若手を育成するのには必要な経費だ。
無論、損害は無いに越した事は無い。
だから、徒弟の才能を見抜き、錬金鍛冶師としての能力の低い者には、その師匠は徒弟に対し、他の職種を勧める事になるのである。
だが、ケベルとサリエの実力の高さは、すでに確認済みだ。いまさら他の職業を探しに行けと、管理局へ送る事にはならないだろう。
俺は短剣や長剣、手斧に槍、そして切れ味の鋭い包丁を作らせる事にした。
何も武器を作るだけが鍛冶屋の仕事では無い。というのもあるが、切れ味を鋭く仕上げる刃物の作製は、剣や槍などの武器の出来にも影響を及ぼす為だ。
一本目の短剣を完成させた二人を見届けると、俺は俺の作業を始める事にした。
混沌結晶や聖銀鉄鋼などの素材を倉庫から取り出して、実験を始める。
混沌に対して有効な攻撃手段を獲得する方法。その研究の第一歩だ。
まずは魔法抵抗値の高い聖銀鉄鋼に、混沌結晶を、錬成台の上で結び付けてみる。
魔法を使って、その様子を「解析」する──。
微妙な変化も見逃さず、混沌結晶に起こる反発や、消失を観察し、その現象から、魔法に対する混沌の効力を調べようと考えたのだが──
「魔力に反発する部分、消失する部分、融合する部分、増幅する部分がある……だと⁉」
錬成台の上で聖銀鉄鋼が変化し、鉄、あるいは鉛に似た物に変質してしまった。
しかも、体積や形も変化している。
「想像以上の難物だな」
混沌は、あらゆる現象を無作為に発生させるのか? 今度は先程と、まったく同じ様な(もちろん大きさや形などだけだが)素材を用意して、状況的にも同じ様なやり方で実験する。
しかし今度も、先程とは微妙に違う現象が起こり、その結果も違う物だった。
聖銀鉄鋼は、黄銅(真鍮)になってしまったのだ。
その後も俺は、混沌結晶に「解析」を行い、微妙な違いや変化を読み取ろうとしたが、混沌が生じさせる結果を、何らかの方法で引き寄せない限り、同じ結果は得られない。という結論に至った。
試しに「魔法効果増幅」を付与した鋼鉄製の短剣に、魔力結晶と混沌結晶を錬成強化に使ってみると、魔法効果の増幅数値が通常の場合より、大きな物となるのを確認した。
これは魔力結晶のみ、あるいは混沌結晶のみを使った時よりも、ずっと高い効果を得られる。という事だ。
しかし、混沌結晶から、望みの効果を引き出すのは容易な事では無かった。散々混沌結晶や、その他の素材を消費しながら、法則性を見つけたのは、魔力との相性と。
魔法を「無効化」する力を発現する組み合わせを、見つけた事だけだった──
「魔法を無効化⁉ 大発見じゃないですか!」
武器を五つ全て作り終えたケベルが、驚きの声を上げる。
試しに銀の指輪に、混沌結晶を三つ使って錬成してみたのだ。
自分でも、何でこんな錬成をしたのか、はっきりとは分からない。混沌結晶が惜しいとか、勿体ないとか、そういった事をまるで考えずに、自然と錬成をしていたのだ。
その結果、銀の中に結び付く部分と、外側に結晶として取り残される部分を発見したのだ。
「そうだな。大発見だ──、うん。そうなんだが──、いや……う──ん」
思わず頭を抱える。
混沌が齎す影響は、結果が見えない。
まるで夢の中で見た覚えのある──。霧に包まれた高原の中で道に迷ったみたいな、行き先すら分からない旅の様だ。
それにもかかわらず、今回のような発見をし得たのは、混沌の恐るべき影響力の中に取り込まれたからではないか。そんな不安が心を過ぎった。まるで混沌に操られているみたいだ……
ケベルとサリエは己に課された試験を終え、それぞれが平均以上の成果を残して成し遂げているのを確認した。
「良くやった。これで基本的な錬金鍛冶を任せられるな」
次は防具を作らせる事にし、俺は引き続き、混沌結晶を用いての実験を続けたのである。




