ユナの訴え
ある日、ユナが一人の少女と共に駆け込んで来た。
切羽詰まった表情の彼女はこう訴えた。
「オーディスワイアさん、私を助けてくれませんか」
なんでもユナは昇華錬成をした銀の腕輪の力で、第八小隊から第七小隊へ昇格したのだという。ところが第七小隊内でも彼女の魔法の力は群を抜いていたーー当然だ。昇華錬成した力は通常の規格に当てはまる物ではない……と言っても自分もその本領という物を、理解していなかったようだ。
彼女の力を妬んだ第八小隊のーーおそらく彼女の形見の腕輪に「四大精霊の加護」を付けるよう精霊結晶や魔晶石を渡したーー奴が今更、「その腕輪に使った素材は私達第八小隊が集めた物で、腕輪は私達の物だ」と主張し始めたのだという。
「ふざけんな」
と言ったのはユナが連れてきた目つきの鋭い少女ーー身体を見れば分かるが、なかなかの武闘派であろう。首や腕の筋肉を見るとしなやかでありながら強靭で、拳は小さいが鍛えられたものであるのは明白であった。
この少女は第七小隊の一員で、ユナとは何度も共に探索へ赴き、頼れる仲間としてユナを認めているようだ。全身を武器にした体術の使い手で「小さな鬼神」などと呼ばれていたらしい。
「私、メイ。よろしくお兄さん」
少女は言った。ユナが紹介した通りかなり無口な少女であるらしい。
だが俺はこの娘が気に入った。俺を「おっさん」や「おじさん」と呼ばなかったからだ。
ともかくメイは当の本人以上にぶち切れていた。しかも第七小隊の隊長までもがユナの腕輪の所有権を主張して、ユナから取り上げようとしたらしい。
「ふざけんな」
ともう一度メイが口にして、殺気に似た物騒な気配を漂わせる。鍛冶場に入って来た猫が怖がって逃げ出してしまったほどだ。
メイはユナの味方をして旅団を抜けるとまで宣言したらしい。短い期間でユナは、強力で誠実な得難い友人を得たようだ。
「話は分かった、それで? 俺はどうしたらいい?」
俺はユナを守る為に、腕輪に「四大精霊の加護」を錬成した者として都市フレイマに赴き、「朱き陽炎の旅団」の連中と都市を治める神ーーつまり火の神「ミーナヴァルズ」の裁定の場で証言する事になった。
もちろん俺は、ただ証言する事を求められているだけだが、俺にはその旅団と火の神に言ってやりたい事があるのだ。
そう、メイの言葉を借りるなら「ふざけんな」と言ったところだ。




