勉強と成長
今回の話は、教員や、勉強が嫌いだと言っている子供に読んで欲しいですね。
説教臭いと言わずに読んで欲しいなぁ……
宿舎に帰る途中で、エウラに作った籠手があるのを思い出した。
鍛冶屋で預かった武具などを保管する保管庫に入れたので、それを取ってから宿舎に行こうとすると、鍛冶屋の入り口は閉じられていたが、鍵が開いている。
鍛冶屋の中に入ると、ケベルとサリエが、今日やった武器や防具を作る作業工程を振り返って、互いの意見を交換している所であった。
「おう、まだ残っていたのか」
保管庫から籠手を取り出して来ると、二人が鞣し革に魔力回路を作る時に使う、油について質問してきた。
「ああ、あれは油じゃないぞ。火も付かないし。水、塩、魔力鉱石、中和剤を調合して作り出す錬成品だよ。……基本的な素材や錬成品について知りたければ、そこにある『錬成指南書』や、『錬金叢書』を自由に読んで構わないぞ。汚さなければな」
二人の徒弟は「ありがとうございます!」と同時に言って、書棚の方へ駆け寄って行く。
「勉強熱心なのは良い事だが、ちゃんと食事も取って、体を休めろよ。また明日な」
すると二人は「お疲れさまでした」と、またも声を揃えたのであった。
二人は鍛冶屋を目指す職人の卵ではあるが、その目指す目的地は微妙に違う。
二人とも「昇華錬成」を起こせる様な鍛冶師になりたいと望んで、俺の元へ徒弟として入る事になったが、ケベルは武器の作製に強い興味を持ち、サリエは防具や装飾品を作り出す事に、こだわりを持っていた。
二人とも勉強を嫌がらない性格なので、錬成については、そのうち独学で自分のものにしていけるだろう。
勉強とは、嫌な事を学んでいく作業では無い(もちろん、苦手な分野を克服し、学んでいこうと取り組むなら、その人間は、あらゆる分野で強くなれる可能性があるだろう)。
自分が興味を持って取り組んで行ける、自分を成長させる道を、まずは自力で探し出し、熱意を持って打ち込む事だ。
これを学べと、(学校や政府などから)与えられた事を覚えるのは、勉学では無い。
自分の意志で学び取ろうとする、その意志こそが勉強の本質だ。
冒険も同じ。
与えられた武器や防具を身に着けて、強くなった気でいるのは、三流以下のする事。
強くなる為に鍛練し、冒険に必要な知識を集め、装備についても抜かり無く研究、準備をする者が、優秀な冒険者になるのである。
強くなろうとする時に、何が必要になるか、何が自分には足りていないのか。
そうやって自分で考えて、足りないものを埋めていく。これの積み重ね、自分の目的に近づく為の、努力を行っていく作業。
これが勉強なのである。
宿舎に戻った俺を出迎えたのは猫のライムと、その子供達。
冒険に出ている仲間や、市外訓練場で訓練をしている者も、まだ帰っていない様子だ。
ライムは巣箱の中で横になっていたらしいが、玄関を開けて入ると、起き出して来て「ナァァ──」と俺に声を掛ける。
「お──ぅ。子猫達も元気だな」
子猫は廊下で走り回ったり、子猫同士で喧嘩(狩りの練習?)をしたりしながら、過ごしていたみたいだ。
靴を脱いで廊下に上がると、ライムと子猫が脚にすり寄って来る。
「みぃ、みぃ」と子猫は甘えた声を出しながら、俺の後を付いて来て、部屋の中にまで入って来た。
この、所々が青みがかった子猫は、ユナやエウラにも良く懐いている。……そういえば、リーファに懐いたのも、この子猫だった。
「甘えん坊なんだな」
手にしていた籠手を棚の上に置くと、小さなテーブル席に座って、足元に来た子猫を抱き上げる。
しきりに「みぃ、みぃ」と鳴きながら、俺の顔を見上げている子猫。
俺は机代わりのテーブルの上で、紙に簡単な「冷暖房装置」について思いついた事を書き殴っておく。
洗濯機に使った機能の応用で、冷結晶や火の精霊結晶などを利用して作れるはずだ……
「みぃ──、みぃ──」
膝の上に乗せた子猫が「自分を構ってくれ」とでも言うみたいに、大きく鳴き声を上げ始めた。
「わ、わ──かったから。……よし、餌でも用意するか」
子猫を抱き上げて部屋を出ようとすると、部屋のドアをカリカリと引っ掻く音が聞こえる。
ドアを開けると廊下にライムが居て、心配そうに子猫を見上げている。
「だから、部屋に監禁する訳じゃないんだから。──心配し過ぎなんだよ」
ライムは「ゥニャァ──」と鳴き声を発して、脚に体をすり付けてくる。
俺は巣箱の中に子猫を下ろして、他の二匹の猫を抱き上げると、巣箱の中に入れ、綿織物でくるんでやった。




