女神アヴロラへのお礼
その後も魔法の剣を造り上げた。
しかも二本。
一つはリゼミラに渡す、火属性に対応した魔法の剣。
もう一つは──象徴を盛り込んで造った魔法の杖である。
これは俺の身体を治療してくれたパールラクーンの神、女神アヴロラに個人的な礼として──感謝を伝える物として渡す物だ。
女神に贈る魔法の武具──杖の心象はもちろん、「カドゥケウスの杖」である。
頂点に広げられた翼、杖に巻き付き交差する二匹の蛇。いくつか付け足してみた物もある。
杖の頂点には金剛石を付け、二匹の蛇には紅玉と青玉の眼を取り付けた。
翼は白金。杖の上半分は金を使い、下半分には銀を使用した。
──超豪華な物になってしまったな──そんな風に設計図を見ながら思うが、変更する気は無い。
生命を司る神に捧げる物だ。手を抜くなど、俺の魂が許さない。
杖自体を作るのは比較的簡単だ──問題はその杖の周りを取り囲む蛇を形作る事だ。
別々に作って、装飾として後から杖に付けるのは、上部の白金の翼や宝石などだ(白金の翼はサリエに依頼して作ってもらっている)。
杖と別々の回路を構成するとしても、簡単にはいかない。
杖に巻き付けるからだ。
金や銀に魔力回路を造るやり方も、鋼などの武器を作るのとは、まるで違う。
金鎚で叩く訳では無いのだ。
初めから魔力結晶を溶かし込んだ金や銀を、魔法の手袋(耐熱性を上げた、鍛冶作業用に作った厚手の手袋)で金属を直接、手に持って、それを杖の形に伸ばしたり、捩ったりするのだ。
金や銀は魔力との相性が良い為、簡単には回路が切れたりはしないので、その点は安心だが──
金と銀には、魔力結晶と共に、霊晶石や各種の精霊結晶も溶かし込んでいる──。他の金属では中々できないやり方だ。金属内に一遍に混ぜ合わせても、金や銀の場合はちゃんと調和して、安定して纏まるのだ。
だが冷え固まる前に、杖の形を決めなければならない。
粘土で作った型に流し込んで作るのが一番安定するのだが、敢えて違う手の込んだ手法を取る事にした。
固まる前に細かな装飾を彫り込み易いように、道具で(特に蛇の鱗の表現などの)装飾を作りながら作業を進める。
「あつい」
魔法の手袋をしていても、掌が火傷しそうだ。
金属を伸ばして、金と銀の魔力回路を繋げるのが大変だった。
細かく砕いた魔力結晶を二つの金属の間に付けて、接合する事が出来たのだ。
二人の徒弟の力も借りて、蛇を巻き付けたり──何とかそれらしい形に杖を作り上げると、後は細かい部分の意匠を彫り込んだり、蛇の頭を丁寧に掘り抜く作業に入った。
サリエに翼の作製を任せ、丁寧に杖を造り上げる。
金の蛇に紅玉の眼を填め込み、銀の蛇に青玉の眼を填め込んで、杖の頂点に金剛石を填め込む。
サリエが作り上げた白金の翼の装飾を取り付けて、カドゥケウスの杖は完成したのである。
労力を惜しまないで造り上げた魔法の武具が完成すると、徒弟達は「この変わった形の杖は何と言うのですか」と尋ねて来た。
俺は少し考えた──、カドゥケウスはあくまで模範とした物だ。
「『生命の杖』だな」
なんの捻りも無いが、この杖は四つの属性が混じり合い、さらに回復魔法を増幅する効果も持たせたのだ。
見事に四つの属性が調和している状態は、美しい金と銀から成る、この杖の完璧な秩序を表しているみたいに見える。
金の蛇と銀の蛇が絡み合い、白金の翼を広げる杖の頂きに向かって、輪を描きながら登る蛇達の姿は、地面を突き破って頭を出した芽の様でもあった。
また一つ、究極の魔法の武具を造り出した──。そんな満足感を感じながら、この日の作業は終了したのである。
カドゥケウスの杖は、某国際機関がシンボルとして採用しています。
カドゥケウスの杖は「メルクリウスの杖」とも呼ばれ、錬金術では、お馴染みの象徴でもあります。
メルクリウスはトリスメギストゥスとも関係し~ え、うんちくはいらない? そうですか……




