表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第七章 方舟大地の未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/585

錬金術とは哲学である

今回は錬金術関連のうんちくと、オーディスワイアさんが過去に(フォロスハートでの事を語りながらも、それ以前で起こった事などを重ね合わせて語っている)あった事について独白する内容。

錬金術って、(割と)個人的なものなのですが、オーディスワイアさんは以前から、その力を世界の為に使おうとしていた人なんですね。

彼はフォロスハートに来た事を心から喜んでいるのです。(それはつまり……)

 鍛冶屋に戻ると、新たな仕事の依頼が入っていた。簡単な強化錬成だ。魔法の武器については、入り口近くに貼った案内板に、その製造の難しさにつき、失われる素材の保証は出来ない事などを書いてあるので、大抵の──よほど素材と金の余った上級冒険者でなければ、魔法の武具を作って欲しいとは言い出さないであろう──冒険者には損失の恐れが先立つだろう。


 まずはケベルとサリエに昼食休憩を取らせ、その間に入ったばかりの簡単な仕事をこなす事にした。

 預けられた鋼の剣に、同じく依頼者が持ち込んできた「灰色狼の牙」を使って「攻撃力強化」を付ける依頼だ。


 錬成台にそれらを持って行くと、一度考えを整理して、錬成に集中する。

 どんな単純な錬成であっても気を抜く理由にはならない。一つ一つの作業に全力で望む。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()というものだ。──それは己を鍛える事と同義である。


 *****


 誰かの為に行う作業だとしても、それはやはり己の為になるのだ。

 小さな仕事だと手を抜く者は、深遠なる作業の深奥しんおうに触れる事は出来ない。というのが錬金術の教えるところだ。


 知る者は知り、知らぬ者は永遠に知らぬ。

 叡智えいちの扉がすぐそばにあっても、俗人には気付かれぬであろう──何故なら彼らは盲目だからである。


 気難しい哲学者のごとでは無い。

 我々は知っている。知らなければならぬ。

 答えは身近な所から始まり、その道の先にしか無いのだという事を。

 だからこそ、一つ一つの作業をおろそかにはしない。


 愚か者になるのは簡単だ。

 哲人になるのは困難な事である。


 俺は今、誰かが依頼した鋼の剣に向き合いながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 錬成台の上に剣と素材を丁寧に並べると、俺は錬成を始めた。


 *****


 かなり良い結果が生まれた。あれだけの素材でこれだけの攻撃力が強化されるとは──。今までの錬成の中でも五本の指に入りそうな上昇率だ。

 初心に返って、真摯しんしに作業に取り組む気構えが出来たのが功を奏したのだろうか。

 むしろここは、怪我の功名と言うべきか。


 けいを傷つけ、錬金鍛冶の仕事が出来なくなった事で、かえって自分の果たすべき役割に気づいたと言うか、取り戻したと言うか……


 自分は多くの人に支えられ、そして多くの人々を支えられるのだと思い知った。


 海に生きる巨大なくじらも、小さないわしや、それよりも遥かに小さな微生物が居なければ、彼らは生きられない。

 小さな生き物が滅べば、大きな彼らは何を食べて生きるのだ?


 俺は鰯だ。

 誰かを支え、生かす為の技師。

 彼らが活躍すれば、この都市に、この世界に物資がもたらされる。


 俺はその事を苦だと思った事は無い。

 ただ、冒険者を辞める事になった時は苦悩したが。


 今まで果たしてきた事が出来なくなるという──挫折感ざせつかん


 それでも俺は別の道がある事を、すぐに思い出した。それは今まで、自分を支えてきてくれた人々が居たのを思い出したからだ。

 俺は冒険者をやっていた頃から、鍛冶屋や魔法屋、料理屋や道具屋などの人達と向き合ってきた。俺は彼らと共に生き、戦っているのだと感じていた。

 だからこそ、挫折を乗り越えられたのではないかと思ってきた。


 周りの人に対する感謝も無く、自分の果たしている事を得意げに、ひけらかすだけの幼い精神では、自分が傷ついた時に、人に助けを求める事すら出来なくなるのでは無いだろうか。

 他人に対する優しさや厳しさは、いつでも自分をしっかりと持ち続け、他人を愛する気持ちから生まれるものなのだ──他人を軽蔑けいべつする者が、他人を理解しないのと同じ様に。()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。


 無関心が人を、自分を成長させる事が無いように。彼は自分を愛せなくなるのだ。


 孤独は時に人を強くするが。

 孤独に溺れた者は、自分すら見失ってしまう。


 俺は他人の装備品を鍛えながら、己を鍛えているのである。

 己の弱さに負けはしないと、金鎚を振り上げて、熱さにも、疲れにも負けず。油断や迷いを打ち払いながら。

 一つ一つの作業に邁進まいしんする。

 これも立派な勤めであり、戦いだ。


 今はただ、武器や防具を鍛える事しか出来なくても。

 それが誰かを守り、救う事になると信じている。


 俺はこの大地フォロスハートを、ここに住む人々を、仲間を、そして神々を──愛しているのだから。


 彼らを救い助ける、あらゆるものに──感謝と愛を、返そうと思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ