生命の転輪護符の作製
誤字報告、ありがとうございます。
手書きの時は「意外」と「以外」は書き分けているのに、変換する時は結構「以外」と打ち間違い──というか、頭の中で「外」というのを見て「あっている」とでも誤認していた様です……便利になるのも考え物ですね。
銀を溶かして錬金容器に入った水の中へと流し込んでいく──切れ目無く、ゆっくりと、細長い鎖を心象しながら。
水の中に入った溶けた銀は、急激に冷やされると同時に、首飾り用の鎖の連なりに変化していく。
この製法は、釘を作り出す時と同じやり方だ。
予め、錬成容器に張った水に術式を仕込んでおき、溶けた銀を、鎖を生み出す小さな輪っかに加工しているのだ。
さらにそれらを繋げる事も同時に行い、一気に完成した首飾り用の鎖を作り出す。
「すごい……!」
サリエは驚き、声を上げる。
「これは釘を作るのと原理は同じだが、難易度はこちらの方が格段に難しくなる。まずは、銅などの金属を使って練習する方がいいだろうな」
一本目を作って見せたので、彼女には変彩金緑石を填め込んだ銀細工の作製に取り掛かってもらう。
俺はその間に二本目、三本目の鎖を作る作業に入った。
予備の鎖を作り終えサリエを見ると、彼女は細かな側面の装飾を彫っている最中だった。
こちらも「生命の転輪護符」を錬成する為の材料を揃え、心象訓練を始める。──焦らずに行う為の訓練だ。どの配置が良いかは、ある程度は決まっているが、やってみないと巧くいくかは分からない。
もし失敗すれば──成功率二割以下──稀少な宝石ごと、サリエが苦労して作った銀細工も消滅するかもしれないのだ。
緊張するに決まっている。
今の内に配置をいくつか考えておく。生命を循環させる自然の法則──理論。死と再生の仕組み。それらの方法論を表す図形の配置……いくつかの配列が頭をよぎる──どれが……、どちらが正解か?
そして、それらを結び付ける呪文。こちらも同時に思考の中で組み上げる──基本となる詠唱の文言を構成していく。
「一つ目、完成しました」
サリエの声で自分が長い間、沈思黙考していた状態から引き戻された。
「よし……ふぅ。こちらの配列を試してみよう」
出来上がった首飾りの宝石部分のみを錬成台の中央に置き、生命の終局と、引き継がれるものを表象する図形の配置に素材を並べる。
水晶。竜血晶。荊で作った小さな輪。黒い灰鉄柘榴石。塩──今回は岩塩を用意した。
それぞれの素材が象徴的な意味を持っている。
そして、呪文──これも問題だった。
「ふぅ──、いくぞ」
俺は命の生滅を表し、その流れを紡ぐ秩序を、自然の摂理になぞらえる呪文を詠唱する──
『来たれ、命の天秤。普く満ちよ、日の光。雲が空を覆い、影が大地を埋め尽くそうとも、雨は降り、日の光が降り注ぐ。古き時代から未来へ、若草が満ち、命は巡る。罪も災いも無く──』
錬成台の上で水晶が砕け、灰鉄柘榴石に亀裂が入り、荊の輪が灰となって崩れ落ちる。
「ぎぁぅぶァッ……!」
思わず口から奇妙な悲鳴が漏れ出る。
だが、宝石の付いた首飾りと竜血晶は崩壊せずに済んだ。
それを確認すると、少し救われた気持ちになる。
俺は素材の配置と呪文を錬成手記に書き込み、失敗した理由も記す。次に問題点を修正した構成と呪文を書き込んでおく。
失敗した事を整理して──一度、気持ちを落ち着ける。失敗を引きずらないように、しっかりと失敗の理由を追及し、それを払拭する方法を構築する。
命を表す竜血晶が残ったのは、死を象徴する灰鉄柘榴石との接合が図れなかった為だろう。
生から死への象徴である荊の輪は灰になった。竜血晶では他の象徴物とは合わなかったのだ。
一応、錬金叢書に書かれた物を元にして(命を表す物に竜の牙や、塩の結晶などが挙げられている)竜血晶を奮発したのだが……
「それならば、命を表す物に『黄金の花』を使おう」俺はそう口にすると、素材倉庫に向かう。
黄金の花は、金で作った花(薔薇に似ている場合が多い)である。
何故、金で作った花が生命の象徴として使えるかは──ここでは割愛しよう。込み入った内容になるからだ。
再び錬成台の上に素材を並べる。
宝石を中央に、その周りを荊の輪で囲み、手前に黒い、灰鉄柘榴石を、水晶を右に、その反対には岩塩の塊を。奥に黄金の花を配置する。
呪文についても変化を加える必要がある。
呼び掛け(出だし)の部分から違っていたのだ。生命の掟に準ずるならば、それらを司る神に呼び掛けるべきだったのだ。
『偉大なる盟約者。命の理を結ぶ者。生と死の天秤を持ち来たれ、普く光を齎し、影を生む者。汝は生命。命の終わりに次代の種を蒔く者よ。我らに知らしめ賜え。天より雨を降らせ、光を降り注ぎ、回帰する定めにある者と。我らを導く、運命の転輪よ』
呪文の詠唱が終わると、錬成台の上に置かれた物が淡い光へと変化して混じり合う。グルグルと光の輪が錬成台の上を駆け巡り、一瞬で中央に置かれた宝石の中に飛び込んだ。
七色に光る変彩金緑石の首飾りだけが錬成台の上に残された。
「よぉ──しっ! 成功だ!」
俺は完成した物を鑑定し、鑑定書を書き。錬成手記に作製のやり方や注意点を書き記す。
徒弟の二人は、鑑定書を見て感心している様子だった。
灰鉄柘榴石は正確には「アンドラダイト」と言います。
チタンを含んで黒くなった物を「メラナイト」と言うようです。
この真っ黒な石はある場所では埋葬品として死者と共に埋葬されていたらしいです。
黄金の花については──錬金術の文献からですね。




