鍛冶屋に現れた修羅
燃え盛る炎と格闘し、俺とケベルとサリエの三人は、所持していた鉱石のほとんどを延べ棒へと精製した。
それらを使って、まずは二人の前で基本となる短刀の作製を行った。金鎚で金属から不純物を叩き出し、火花を散らす作業を行う。一つ一つの作業の注意点を説明しながら、どのようにその作業に取り組み、そして次の作業に移ればいいかを説明する。
勘のいい二人だ。説明した事以上のものを読み取っている感じで、二人はすぐに短刀を作り上げたが……
ケベルが鍛冶技術に忠実に造り上げる──所謂「無骨な」仕上がりをするのに対し、サリエは独自の装飾技術を盛り込む余地を残したり、刃の形を変形させて波打たせた背の形にしたりと、変化を加えてくる。
「遊び心も大事だが、基本も大切にな」
二人の為に、剣や斧や槍を造るところも見せ、数日間は基本的な武器を作製して鍛冶屋の一部に展示品として売る物を作りつつ。
俺は自分の体力や筋力が回復したのを確かめ。そして何より、鍛冶師としての細かな作業を集中して行える事を確認できた。
まずは通常の武器の作製を依頼された物から片付ける──もっとも、うちで武器を作る時は、強化錬成も同時に行う形式が多い。
金属から武器を打ち出す工程で錬成を施すのは、古い形式であるが──その為、余所で作るより若干、値段が高く。それでいて錬成効果も余所より高め、という結果になる。
もちろん錬成を施さない依頼も受ける。その場合は弟子達の出番だ。
彼らにはまず、通常の武器を作る作業をやらせて、金鎚の扱いと、金属の扱いを身体で覚えてもらう。
錬成についての方法論などはその後だ。
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客の依頼を達成する為に打つ錬成武器。それを造り出す作業を真剣な様子で見る二人の徒弟。
彼らは手伝う時も師匠である俺が金鎚を振るい、錬成素材を加えている時も常に、真剣な眼差しを俺に向けている。
職人の作業は「目で盗め」が基本だからだ(もちろん基礎的な部分は教えなければならない)。
彼らはそれを重々理解していた。
鍛冶屋に出された分の依頼が片付くと、いよいよ魔法の武器を錬成する事になった。
久し振りの魔法の武器錬成だ。準備の段階から気合いが入る。
まずはリゼミラの為に魔法の剣を造るとしよう──あいつは火属性を扱えるだけだが。しかも燃費が悪い。強力な火属性の魔法しか使えない上に、魔力の内包量が少ないのだ。
魔法の剣を扱うようになれば、そうした欠点もある程度は解決出来るだろう。
そう思って魔法の剣を造る作業に入ったが、なんと。火の精霊結晶を加えて、魔力回路に火の力を付与する時に二回も失敗して、真紅鉄鋼や加えた素材を無駄にしてしまった……
失敗についてもちゃんと手記や帳簿に記録する──弟子達もその様子をハラハラと見守っていただろう。
俺はそうした時には弟子に声を掛けさせ無かった。久し振りに魔法の武器を造るので、集中したかったのだ。
しかし思った通り、少し。ほんの少しの勘の鈍りで、魔法回路を断ち切ってしまう叩き方をしてしまったのだ──その事を書き込むと、新たな気持ちで金床と炉の前に座り込む。
真っ赤に焼けた金属を前に、俺は無心で金鎚を振るい続けた。(失敗するかも)とかいった考えを抱いてはいけない。
あくまで成功する為に、武器を完成させる為に作っているのだ。失敗する為にやるのでは無い。
熱く焼ける金属を炉の中から取り出し、金床の上に金属を乗せると素早く、金鎚で叩き、火花を散らしながら不純物を取り除いて行く。
一定の間隔で、金属が固くならない内に叩いて叩いてを繰り返す。固くなる前に燃え上がる炉の中に戻し、ひっくり返したりしながら──注意深く作業を進める。
炉の中に魔力鉱石を投げ入れて、剣の形を成してきた金属を入れる。
溶けた金属の中に、刃の中に──新たな命の息吹を吹き込む。そんな心象でその作業を行っているが弟子達が後で語って聞かせてくれたのは、真っ赤に焼けた鉄を打つ「鬼」の様であったと──
俺は魔力回路を生成し終わると、炉の中に火の精霊石を投入し、火の神への祈りの言葉を呟きながら、赤熱する剣に火の精霊結晶を加えて、それを生成した魔力回路に繋げて行く。
緻密な、精密な作業が行われた。
一心不乱、一意専心。これを技術として振るうのでは無い、と俺は思う。
自身と金属のやり取り、関係性を持つ事なのだ。
この捉え方、感じ方、考え方は──ユングだ。
技術的な取り組みだけでは無い。錬金術を通して、自らの心や魂を投影して、完遂する作業。
それこそが錬金術への取り組み、自分自身への取り組みとなるのだ。
だからこそ、俺が鍛冶場で作業している姿は「鬼の様」なのだろう。
それだけ真剣に取り組んでいる。
俺は、自らの魂を金属に打ち付けて金属を鍛えている──修羅だ。
「ユングだ」=心理学者のC.G.ユングの事です。
『心理学と錬金術』は名著だと思いますね。是非、一読を。(専門書なので、念のため)




