快方祝いと今後の計画
食堂に集まった仲間達。
彼らは皆、俺の体調が復調した事を喜び、カムイなどは「これで遠慮せずに錬金強化を頼めますね」などと言って笑いを取る。
「お手柔らかにな……というか、毎回言っているが、只じゃ無いんだぞ。──それに、リゼミラやダリア、フレジア達の武器も造る事になったし。アラストラから貰った、銀鎧竜の甲殻を使って魔法の武器を造る約束もしているしな──忙しくなるぞ」
言いながら、肩をぐるんぐるん回す。
ユナとメイからは調理中に、遠征先での活動報告みたいなものを聞かされていた。新しく開いた転移門先は、美しい清廉な水に満ちた世界だったらしい。
「そこら中に綺麗な小川や、湿地帯があったよ。生き物も多かった」とメイが言えば。
「けど、水草の生えた場所から突然、鰐が襲い掛かって来たりして、凄く怖かった」とユナが言う。
「いいねぇ……やっぱり、新しい場所に冒険に行くって、いいもんだな」
「楽しかった──」
「怖かった……」
メイは楽しかった部分に注目し、ユナは怖かった部分に注目している。
これは二人の性格の違いを表しているが、冒険者にはユナの様な慎重さも重要だ。
怖かったと感じるという事は、次に活かせるものが多い。──警戒するからだ。慣れや倦怠は、あらゆる進歩から遠ざかる、足踏みや後退を呼び込んでしまう。
*****
テーブル席に皆が座ると、レーチェが俺の回復と、改築された鍛冶屋と旅団の拠点の祝いと、新しく旅団に入ったニオとフィアーネを歓迎する、祝宴と歓迎会を兼ねた宴会の開始を宣言した。
「かんぱ──い!」
一同が手にした硝子杯を持ち上げて、隣り合う者の杯にちょこんと口付けさせる。
宴席なので適度に酒も振る舞われた──
フォロスハートではあまり大酒飲みを見かけない──たまたまかもしれないが、飲んでも二、三杯というのが通例だった。
限りある資源の問題もあるが、これは酒に酔って過ちを犯す事に対する、世間の厳しい目があるせいだろう。
この大地の住人は、節度を持って生きる事を尊ぶ。
限られた大地、限りのある資源。
人々を守る四柱の神々……その恩寵を受ける、小さな、限りある命の後継者として──この大地に住む者達には、自らが受け継いできたものを後世に残し、この掛け替えの無い世界を守り抜く、そうした強い意志があった。
俺も、彼らの意志に倣おう。
この世界を守る為に、俺の出来る事を一つ一つ積み重ね、混沌に対抗する手段を見つけてみせよう。
フォロスハートは混沌に包まれたまま、困難な状況にある──いや、この世界がそうなのだ。
全てが混沌の暗き闇の中に閉じ込められた──この過酷な世界。
今はまだ、混沌に抵抗する手段は持たない我々でも、いつかは──そう、自分達の後継が混沌を恐れずに済む様にする為に。俺達が、その道を諦めずに進み続ける必要がある。
「これからの俺の目標には、混沌を退ける力の研究──という事も追加しようと思う」
俺の唐突な決意表明に、仲間達は「おぉ──」と声を上げたが、それがどういったものなのかは、分かっていない様子だ。
無理も無い。
それはフォロスハートでも、昔から考えられ続けてきた事の一つなのだから。
管理局でも研究している者が居るらしいが、これといった新しい発見は成されていない。彼らは大地を取り囲む混沌にばかり目を向けて、転移門の向こう側に出現する「混沌の悪魔」などの混沌の送り込む「尖兵」には、見向きもしていないらしい。
旅団や冒険者と繋がる知識を得ていないせいだろう。
俺は彼らとは違う視点から混沌を調べて行こうと決めた。新たな分野の開拓。それは冒険に似た行いだ。
これからも旅団の仲間達には迷惑を掛けるだろう。
彼らには、危険な冒険に立ち向かってもらう機会が増える。そんな仲間達の為にも、新しい技術の開発をして行こう。もちろん装備品も含めてだ。
旅団は確実に力を付けて行っているし、資源などを管理局に引き取ってもらって得られる収入も、最近はかなりの金額になっている。
冒険に出ている皆が。どうすれば旅団の、延いてはフォロスハートの為になるかを考えながら、行動しているからだ。
俺はこのフォロスハートの神々に、人々に、なによりも──俺を支えてくれた仲間達の為に。全身全霊を捧げる想いを新たにした。
仲間達を守り、大地を守る。
そう願う者達の力になる礎を築上げたい。
俺の中の錬金鍛冶師としての魂に、新たな火が付くのを感じる。
また忙しくなりそうだ。
葡萄酒を飲み干すと、早速これからやるべき事を考えながら部屋へと戻る。
俺の頭の中には、錬金術の作業や素材の組み合わせについて、無数の式が並び立てられていた。
ー錬金鍛冶師の冒険のその後 第六章 休養と若手の育成 完 ー
今回で第六章、終了です。
もっと若手の育成について書くつもりだったのですが……予定が狂った──
次の第七章で一端の句切りとさせてもらいます。
それではまた次の章で、お会いしましょう。




