道具屋「宝石延べ棒」
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ナンティルの家族が経営しているという道具屋の前に来た。そこは店の外に売り物が並べられているような事は無く、落ち着いた佇まいの店。
……という雰囲気であるが──店の看板には「宝石延べ棒」という、金の匂いがしそうな名前が刻まれていた。
「なんというか……個性的な店名だな」
「金の延べ棒に宝石をまぶしてあったら、最強じゃないか?」
「ぉ、おぅ……」
家族が経営していると言っていた気がするが、ナンティルの発想が、そのまま店名にでもなったのだろうか?
いや、待て……彼女の家族全員が、守銭奴という事もあり得る──
店に入るのを躊躇っていると、彼女が振り向いた。
「なんか、つまらない事を考えているにゃ?」
結局、押し切られて店内に入る事になった。
店の中は薄暗く、いかにも強い光を嫌う猫獣人のお店。という雰囲気だ。
入り口横にあるカウンターの上に、俺があげた小鉢植物園が展示されていた。
「おお、理想的な場所に置かれているじゃないか」
「ああ、それにゃ」と、ナンティルは小鉢を見る。
「お客はそれを見ると、硝子小鉢には興味を示すにゃ。でも植物──というか、苔には見向きもしない客ばかりだったらしいにゃ」
そうか……と肩を落としていると、彼女は「素材でも購入して、気分を変えるにゃ」と無茶苦茶な理屈を付けて、店の奥へ歩いて行く。
「あらぁ、ニャンティル。お客様にゃ?」
「そうにゃ、フェルア姉。こいつが前に話していたオーディスワイアにゃ」
店の奥から品物を持って現れたのは、長く美しい黒髪を持ち、頭から突き出た尖り耳が目を引く、黄色い細長い目をした女猫獣人だった。
彼女は黒い、落ち着いた色調の衣服を身に着け、長めのスカートから、黒の長い靴下を履いた細い脚を覗かせている。
「紹介するにゃ、オーディス。私の姉のフェルアにゃ」
「あらあらぁ、あなたがあの、硝子小鉢の──初めまして。フェルアと言いますにゃ」
あ、どうも。と頭を下げたが、彼女も小鉢植物園にはピンと来なかった一人であるらしい。
「あの硝子──いえいえ、小鉢植物園でしたかにゃ? 数人の方が、購入したいと言ってくれたんですにゃ。もしかすると、売り物に出来るかもしれませんにゃぁ」
フェルアの言葉に「へぇ──」と、感心したとも、呆れたとも取れる、曖昧な声を上げるナンティル。
「それは朗報にゃ。今度オーディスの持ってる物を何個か頂くにゃ」
「せめて買い取れ」
するとフェルアが頷きながらこっちを見て、にっこりと微笑む。
「混沌との戦いで傷つき倒れたとお聞きしていましたにゃ、どうやら無事、回復された様でなによりですにゃ」
彼女はそう言うと手にした品物を持って、それを陳列する作業に戻って行った。
どうやら詳しい説明をフェルアにはしていない様子だ。神アヴロラに治癒してもらえる者など、そうは居ないのだろう。
俺も今回の事はペラペラと話すべきでは無いと考えていた。際限なく治癒を依頼できる訳も無い、あくまで特例として今回の件が進められたはずである。
「さあさ、ここにある素材を買って行くといいにゃ」
ナンティルは相変わらずだ。
俺も彼女に合わせ、これから鍛冶仕事に戻る事を考えて、大量に使うであろう素材をナンティルの店で、纏めて購入する事にした。
「もちろん、行商じゃないんだからその分、安くなるんだろうな?」
俺の言葉に「えっ」と声をもらすが、じろりと睨んでいると、彼女は渋々といった感じで「運搬経費は引いてやるにゃ……」と折れた。
幸い旅団の仲間達の働きのお陰で、各種金属の鉱石は大量にある。精霊石なども、錬成できなかった分だけ在庫が増えたのだ。
魔力鉱石や結晶、宝石の原石などを買う事にした。
パールラクーンの土地では、宝石類が入手し易い傾向にあるようだ。錬成や象徴武具の作製で必要になる素材を買い求め、ついでと言うのもなんだが、店で売られていた丈夫な皮製の背嚢を購入し、その中に買った物を入れて帰る準備をする。
「大丈夫かにゃ?」
「病み上がりだが、宿舎までは持つだろう。──たぶん」
「なんか、不安だにゃ……」
そう言ったナンティルは、転移門までは荷物を運んで行こうと申し出てくれた。
「悪いな。助かる」
こうして何とか、健康体に戻った俺は、フォロスハートまで帰る事になったのだった。
ナンティルの姉フェルア……今後も登場するかは微妙──
パールラクーンから出なさそうですし。(フォロスハートがメインですので)




