風の精霊石
精霊石は、それ自体に属性の力が宿っていて、魔法を使う時に使えば、それなりの効果を発揮するが、そのまま使うと消費されてしまうので、効率が悪い(しかも威力も低い)。
そこで錬成強化によって、装飾品や杖などに属性強化を施す方がお得なのである。
「金は掛かるがな」
三人は最近防具を新調したばかりで、お金が無いのだと訴える。そういう時は……
「俺達鍛冶屋も、素材が無ければ錬成はできない。そこでお前らの持って来た素材を買い取ろう、精霊石も全部錬成に使わず、いくつか俺に売って貰う。それで今回の錬成費用はちゃらだ」
ぶっちゃけお前らの持って来た素材では、全然足らないけどな……そう言うと三人は、がっくりと項垂れる。
「だが俺はお前らが今後、素材を集めてここに持って来ると期待して、今回はこれで引き受けてやろう」
そう言う俺に「恩着せがましい」とヴィナーが小声で呟く。
「なんか言ったか?」
「いいえ、なんにも」
なんと生意気な娘であろう。そんなだから頭も胸も成長しないのだ。
「精霊石を使った錬成自体は、それほど難しいものじゃない。しかし精霊石を使用する数が増えるほど、難易度は飛躍的に高くなる。そこで精霊石から、精霊結晶を作り出す事が必要になる訳だ」
俺は彼女らに分かり易く説明する。
精霊石の中にある「属性の力」だけを抽出したものを結晶化した物が精霊結晶だ。一つの結晶を作るのに、同じ属性の精霊石が約三十個は必要になるが、精霊石を大量投入して錬成した物に、安全(錬成元が消失する危険を少なくするの)に属性強化錬成を繰り返すなら、こちらの方が確実だ。
「まあ今回は精霊石のみで、指輪に初めて属性強化を施す訳だから、結晶を使わなくても問題は無い」
彼らの持って来ていた精霊石は、水や土属性の物もあったが、これは買い取らせて貰う。火と風はヴィナーの望む通りに、指輪に錬成する事で彼女も魔法を強力に出来、錬成強化の力を知る事になるだろう。
まずは風の精霊石を使って、翠玉の付いた銀の指輪を強化錬成する。
『風司る御身。風の王、風の神よ、我らにその恩寵をお与え下さい。名も無き空の果て、嘗の御霊をここに集いて道無き道を示し給え』
錬成台の上に置いた精霊石十七個が、一斉に砕け緑色の光の粒になると、一瞬で中央に集まり、銀の指輪に付いた翠玉の中へ飛び込んで行った。
「成功ですか?」
「お前……俺をバカにし過ぎだろう」
ヴィナーに出来上がった指輪を手渡し、俺はこう呟いた。
「精霊よ、この無知なる娘に罰をお与え下さい」
すると銀の指輪がくるりとヴィナーの手の平で回転し、ばちっ、と音を立てて電気を放った。
「いっ、たぁあーい‼」
ヴィナーは手を振り上げて指輪を放り投げる。
俺は慌ててそれを空中で掴んで、傷が付くのを防いだ。
「バカか、放り投げる奴があるか」
「だって、電気がびりって……」
彼女は涙目になっている、情けない奴だなぁ。
「今錬成したばかりの物だから、俺の言葉に従ってくれた訳だ。これからはお前がその指輪と心を通わせる感じで、大切にするんだな」
もっとも指輪に意志は無いけどな。と言ったが、彼女は指輪に精霊が宿っていると勘違いしたかも知れない──まあ、放っておこう。
次は火の精霊石を使った錬成だ。




