女神アヴロラとの謁見
二人の巫女とナンティルに先導されて、神殿に入って行く──白い柱に支えられた露台の下にある大きな玄関、開かれた扉は白く塗られていた。
床には緑色の絨毯が敷かれ、広い空間の中に、歩くべき道を示しているみたいに見える。
それよりも……
「おい、どこまで付いて来るつもりだ」
「にゃ?」
ナンティルは、何を言っているか分からない、とでも言いそうな表情をしている。
「行商人で、神殿から雇われた諜報員なら、仕事は済んだはずだろう。それに、御者をやっている事も不自然だ」
赤毛の猫獣人は肩を竦める。
「ふっ、気づかれてしまったにゃ……」
「あ、そういうのはいいから」
「なんでにゃ!」
盛大な溜め息を吐くと、ナンティルは諸事情の説明を始めた。
「別に大した理由も無いけどにゃ。ここの神官長と知り合いなだけで……商売も情報も、信用が第一にゃから、それで神殿からは色々と頼まれる機会が多いって訳にゃ」
取り敢えず、神の間の手前にある控えの間まで付いて行く、と彼女は言う。
もしかすると、本気で俺の体調を心配してくれていたのかもしれない。彼女が神アヴロラに治癒の依頼をしに行ったのだし、最後まで見守るつもりでいるのかもしれなかった。
律儀な事である。
「業突く張りの癖にな」
「なんか言ったかにゃ?」
神殿の広々とした通路から、次第に細い通路を歩いて行く──左右に豪奢な木製の扉がある所で立ち止まると。巫女が一方の扉を指し、その先にアヴロラ様が居るので、お一人で進んで下さい、と説明する。
「私はこっちの部屋で待ってるにゃ。終わったら呼んで欲しいにゃ」
一人で神と会うなんて緊張するが──身体を治癒してもらう為だ。
重厚な扉を押し開けると、その道の先に向かう。
部屋の中に入ったはずなのに、庭園に出て驚いた。
水が豊富に流れている間にある、石畳の通路を通りながら、さらに先の扉を開けて、神の居る大きな部屋に入って来た。
巨大な白亜の柱に支えられた高い天井──いくつかある天窓から、日の光が差し込んでいる大広間だ。
緑色の絨毯が伸びて行くその先に、女神が横たわっていた。
柔らかそうな絹の座椅子──いや、大きな抱き枕を思わせる物の上に横たわる女神は、なんと。大きな身体をした女神だったのだ。
太っているのでは無い。身体の丈が大きいのだ。横になっているから威圧感はそれほどでも無いが、それでも圧倒的な存在感を放っている。
『オーディスワイアですね? こちらへどうぞ』
それは口を開かずに、頭の中に直接響く女神の声だった。
朱色の寝床に横たわり、真っ白な薄絹を纏っただけの女神は、女性的な──豊満な胸元を惜しげもなく晒した格好で、辛うじて薄絹が乳頭を隠している様な、そんな姿で横たわっている。
魅力的な肢体であるはずだが、ここまで巨大な体だと、その大きさに圧倒されてしまう。
『よく来られました、あなたを歓迎します。異邦の戦士よ』
……さすがは神、お見通しという訳か。
俺は緑色の絨毯の先にあった、青い絨毯の上で立ち止まり、そこで膝を折る。
『あなたの造り出した、魔法の剣と象徴武具──それらの技術があれば、パールラクーンも、転移門を造り出す機会が増えるでしょう。それはありがたい事です』
「ですが女神。あの技術は相当な技術と、集中が必要です。簡単には造れないかと思われますが」
そう言うと、女神はそれに対する答えを用意していたようだ。
『そうですね……その難しい技術は、猫獣人族と小獣人族の、双方の協力があれば、何とかなるのではと考えています』
手先が器用なエルニスに細かい作業をさせ、力を使う作業(金属を鍛える作業など)はフェリエスに行わせる、という事だろうか?
「なるほど……それはいいかもしれません」
『私はあなたと鍛冶の事や、あるいはあなたが以前に居た世界などについて、ゆっくりと話しをしたいのですが。あなたは身体を治し、すぐにでも自分の成すべき事をしたいでしょうから、それはまたの機会にしておきましょう』
女神アヴロラはそう言うと、今まで薄目だった緑色の──正に宝石の様な輝きを放つ、美しい瞳を開いて俺を見ると、頭に響く言葉で俺の状態について話し始めた。




