中央神殿都市アーカム
巫女の話によると、中央神殿都市は猫獣人族だけでなく、小獣人族も住んでいる──多種族の共存を一つの目的とした、都市であるらしい。
「むろん、犬亜人は違いますにゃ。あいつらは話しの通じ無い、野蛮な獣に過ぎませんにゃ」
それは憎し故の言葉では無く──実際に彼らは、犬の頭部を持ち、人の体を持つ「亜人」の類に含まれる要素を持つが、言葉が通じ無い相手であるのだ。
それだけでなく、非常に好戦的──というか狂暴で、フォロスハートでも「奴らは敵だ」という認識で一致している。
パールラクーンには、危険な生き物も多いと聞く。
その内の一つが犬亜人だが、大蠍、「岩砕き」と呼ばれる大鼠、その大鼠をも喰らう大蛇など、多くの生き物が生息している大地でもある。
「そうですね……しかし、私達の生活圏はまだまだ狭く、荒野や砂漠の近くには、町を造るまでには至っていないのです」
生き物について尋ねると、巫女からはそうした答えが返ってきた。
都市などの周辺を守るので精一杯らしい。新たな土地を開拓しに行くのは、これからの自分達の(世代の)責務だと考えているようだ。
そこはフォロスハートの冒険者達に協力を求めているはずだが──実際のところ、人数制限などもあり、多くの旅団が参加する、という事が出来ないでいるのが現状だ。
規制と緩和の問題か。
規制には規制する利点もあるが、欠点や不利益も当然ある。その逆の緩和にも、利点は大きいが、欠点もまた多様である。
利益や利点だけを手に入れられる選択、そんなものはありはしない。必ずどこかで不利益が発生したり、不都合な事柄が起こるものだ。
全ての物事は表裏一体が基本、どこかで妥協しなければいけない。特に人間生活には、それが付き物。
──などと難しい事を考えていても仕方が無い。
馬車に揺られながら窓の外を見ていると、ときおり大きな畑の横などを通過し、街道を進み続ける。
街道沿いの為か、危険な生き物に襲われる事も無い──と、考え始めた時、その理由の一つが分かった。
街道沿いに砦が建造されていたのだ。
ここに控えている戦士が、街道周辺を警戒し、街道と畑などがある場所を守っているのだと、巫女が説明する。
戦士はもちろん猫獣人であり、中には討伐隊を組んで、森などに狩りに行く場合もあるらしい。
幸いこの周辺には「剣刃大蛇」は出ないと、巫女は口にする。
「それは、どんな奴なんだ?」
「頭のすぐ後ろの首から、左右に広がる刃を持った大きな蛇です。平地に棲む生き物の中でも、獰猛で危険な相手です」
リゼミラ辺りなら、戦ってみたいと言うだろうが──俺も、そいつからどんな素材が手に入れられるか、という事には興味がある。大蛇の体から生えた刃とか、めちゃくちゃ気になるじゃないか……!
「危険、ですよ」
俺の表情を読み取って、巫女が警告してくれた。
「ははは、俺はもう、現役を引退した身だから」
曖昧な笑い声で誤魔化したが、まだまだ冒険していない場所もあると見せつけられると、少し寂しく感じる気持ちもある。
これからもフォロスハートには、新たな転移門が造られて、新しい場所への冒険が広がるはずだ。
その新天地を冒険できる冒険者は幸運だ。もちろん危険もあるだろう。だが、それでも──冒険とは心躍る、楽しいものだから。
「そろそろ、中央神殿都市アーカムが見えてくる頃ですよ」
窓の外には遠くに、黒い山脈が見えており、その手前に白い──白亜の大きな建物と、それを囲む白い囲壁が見えてきた。
段々とその建物が近づいて来ると、都市を囲む囲壁は、十全なまでに、外部からの攻撃に対応した造りで、壁の上には所々に櫓や、大型の弩砲が設置されている。
馬車は白亜の壁に近づくと、大きな門を潜り抜ける──かなり分厚い壁だ。おそらく壁の中にも通路があって、兵士らが待機したり、武器や食料などを保管する場所なども、用意されているのだろう。
「随分と厳重なんだな」
俺が言うと、巫女よりも先に、御者台で手綱を握っているナンティルが、声を掛けてきた。
「当然にゃ、ここには神アヴロラ様がおられるにゃ。混沌が攻めて来ても応戦できる態勢は、常にバッチリにゃ」
そうだった、混沌の侵攻はパールラクーンにも起こるのだった。
ただ、アヴロラの張る結界が強力な為か、それほど頻度は高くは無いと聞いている。
「もうすぐしたら、神殿の停留所に着くにゃ。降りる準備をしておくにゃ」
準備するほどの事は何も無いのだが。
ともかく馬車が止まると、俺は馬車を降りて、巫女達が降りるのに手を貸してやった。
振り向くとそこには、青い空の中に静かに君臨する、白亜の神殿が姿を現した。
横にも縦にも大きな造りをした建物である。
塔や櫓の数も多く、窓や露台なども、数え切れないほど用意されている。
その神殿は優美でありながら、鉄壁の守りを意図して造られた──要塞としての機能も持った、堅牢な守りの神殿であった。




