精神世界で語られる混沌の大地への影響
「オーディスワイアが、パールラクーンの女神に会いに行くってよ」
誰かが俺の名前を呼んでいる──
「なんと、またしても我以外の女と……! 泊まりなど赦さん、赦さんぞ!」
あ、この声は火の神ミーナヴァルズだ。……という事はここは、精神世界か? なんでまたここに迷い込んでいるのか。
「良いではないか、我らでは精々こやつの気の流れを、徐々に回復する事しか出来んのだから。あの女神は生命に関する力を司る神だという。──ここは素直に任せるべきであろう」
優しげな男の声──風の神ラホルスだろうか? 目を開けたいが、身体が何故かもの凄く遠くに感じる──感覚が遠い、というか、怠い訳では無いのだが──身体との時間の流れが違うみたいな、そんな感じがする。
「あなた達はオーディスワイアが心配ではないのですか? 私に力があれば……今すぐにでも治してあげるのに」
この声は水の神アリエイラ、彼女の優しさに溢れた言葉だ。
段々と身体の自由が利くようになってきた。ゆっくりと目を開けると、青い空が目に飛び込んでくる。ここには太陽と、自然がそのまま残っているのだ。
壊れる前の世界の記憶……美しく、儚い、そして懐かしい世界。
「あ、おはようオーディスワイア。いえ、本当はあなたは眠っているのですが」
彼女は俺の右手側に座っている──俺は湖畔のすぐ側にある、草の生えた傾斜に寝そべっていた。
左手側にはミーナヴァルズが腰掛けている。
「おはようございます──それで、なんでここに来てしまったのでしょうか」
「それは──主にミーナヴァルズのせいだろうね」
と、鳥の姿のラホルスが木の枝に掴まった格好で喋り出す。
「かははははっ、まったく、パールラクーンに出向くくらいでオーディスワイアが寝取られるみたいな剣幕でいやがるのだ、こいつは」
と、大きな銀色の鼠が言う。
地の神ウル=オギトだ。
彼は豪快に笑い飛ばしてみせるが、ミーナヴァルズは苛々と大鼠を睨みつける。
「黙るがいい、ウル=オギトよ。気を司る貴様が、地中の気脈の中に混沌の因子を残しておくから、オーディスワイアがこの様な目に遭っているのではないか?」
そう言われるとウル=オギトはむっ、と口を噤んだ。
「確かに、本来は生命の源たる気が、いかに膨大な量とはいえ、肉体を流れる勁をここまで傷つけるとは思えん。それについては申し開きするつもりは無い、だが、混沌に包まれたこの大地で、完全に混沌の影響を取り除けるのは、気脈のお陰でもあるのを忘れるな」
なるほど、本来は生命の原点である様な気を外部から受け入れたとはいえ、ここまで損傷するのは変だと思ってはいた。それが混沌の影響であったとは……
「混沌と言っても、微量な残り滓みたいなものだ。身体に取り込んでも気の流れが循環する働きの中で、それを除去する様になっている。そこは安心していい」
ラホルスはそう言って俺の不安を取り除いてくれた。大地に居るだけで混沌の影響を受け続けているなら、危険だと考えるのが普通だろう。
そっと、横になったままの俺の胸にアリエイラが手を置いた。
「そのまま横になっていて。ここは夢の世界、あなたには関わりの無い、私達の他愛の無い会話の世界です。──ゆっくりと眠りに就いて、身体を休めて下さい」
彼女の声を聞いていると、静かに目を閉じる──自分から眠ろうとしている訳では無い、彼女の声を耳にすると段々と瞼が重くなる感じで、自然と眠気が襲ってきたのだ。
心地良い眠り──
俺は離れていく意識の片隅で、女神が残してくれた暖かな気持ちを抱いて、微睡みの中に落ちていった。




