三人の駆け出し冒険者再び
翡翠を英語の(ジェイドまたはジェード)と表記しないのは翡翠が日本古来からある、装飾文化の中に大きな価値を持っているからです。
新潟県にある(富山県にも続いている)翡翠海岸に行った事があるので、フォッサマグナミュージアムで見た、色々な色の翡翠(緑色、と書きましたが多くの色の物が、翡翠以外の宝石にもありますよね)や大きな翡翠の原石は圧巻でした。翡翠についての「うんちく」はここでは書きませんが、そのうちどこかで披露するかも知れませんね(笑)
数日間忙しい日々が続いた。お陰で実入りは頗る良くなり、開店休業状態がほぼ無くなった。
「やべぇ、素材が尽きる物が出てくるぞ……」
素材保管庫を覗きながら、今度はそんな不安要素が出てくるのだった。
ままならないものである。
そんな時に駆け出しの男と二人の女がやって来た。結構久し振りだな。この二人の女がまた絶妙に苛つくんだよな。何故か、このぼろい鍛冶屋を頭から見下しているところがな。
だが剣や弓を強化してやってから随分と時間が経った、彼女らも少しは理解してくれただろう……
男も鍛冶屋も中身だって事にな……(キリッ)
そんな俺の想いはどうやら届いたらしい──のだが、こちらの三人も新たな問題を抱えてしまったようだ。
「あの、魔法使いにあった錬成品て無いんですか」
魔法使いの女がぷりぷりと怒った様子で仰るじゃぁ、あーりませんか。
つまりこうだ、男の剣士(名はカムイ)と狩人の女(名はウリス)の武器が強化されたのは良いが、魔法使いの女(名はヴィナー)からすれば、置いてきぼりを食らった様な気持ちになっている。そう言う訳だ。
「あららぁ、でもほら、うちって『ぼろくて』『小汚くて』大通りの鍛冶屋と比べると『小さくて』『貧相』? みたいな──店だしぃ?」
何故か若者言葉を想像して、そう言ってやると、ヴィナーとウリスは顔を赤くして、ぎゅうっと拳を握る。
「そ、その節は、失礼な態度を取り──申し訳ありませんでした!」
ヴィナーが後半は、ほとんど逆ギレしながらそう言い頭を下げると、その彼女の背後でウリスも頭を下げる。
ついでという感じで、苦笑いしたカムイも彼女らと共に頭を下げた。
「ま、駆け出しイビりはこの辺にしといて──それで? 具体的にどうしたいのか。それと、素材は何か得る事ができたのか?」
俺が手をひらひらさせて言うと、ヴィナーは顔中に「やっぱりこの店嫌い!」と半ベソ掻いたガキみたいな顔で、恨めしそうにこちらを見る。
「魔法の威力を総合的に高める『魔力強化』、素材が高価で私達には無理だと知りました。そこで精霊石の採取に行って来たんです」
「ぉお、良い判断じゃないか。成長したな」
立て続けに上から目線で言われても、ぐうの音も出ないヴィナーは唇を噛む。なんだかその仕草でどこかのお嬢様をふと思い出す。
「けど! その精霊石を集めるのにすっごい苦労したのに、鍛冶屋に持って行ったら──」
「強化錬成に三千ルキくらい吹っ掛けられた。そんな感じか?」
悔しそうに頷くヴィナーと他二名。しかし俺は言った。
「まあ、精霊石だけを使った錬成でも結構大変だからな、錬金鍛冶師が魔力を消費する錬成は、割高になるものだ」
そう言うとヴィナーの後ろでカムイが、「ああ、やっぱりそうなんだ」と声を漏らし、振り返ったヴィナーに睨まれた。
「まあいい、一応何に精霊石を使った強化をしたいのか、素材も見せてみろ」
三人が差し出した素材以外の他の素材も、持っていたら出せと言うと──結構な数の素材を背嚢から取り出した。
「へえ、結構集めたんだな。売りに行く前だったか? 好都合だ」
売る前にここに寄ろうとカムイが言ったので、探索から帰って直接ここへ来たのだという。
ヴィナーが出した物は、金の指輪に紅玉が付いた物と、銀の指輪に翠玉が付いた物の二つであった。
「それで? お前の得意な魔法は?」
「火と風属性です……」
それは都合がいい。分かって持って来たのか? と問うとヴィナーは首を傾げる。
「これは母親に、錬成強化に使える装飾品を頂戴! って言ったら、くれた物なんです」
「母親は魔法使いか?」
「ええ、でも私には魔法を学ばせてくれないんです。まだ早い、とか言って」
「ああ、それは何となく分かる。いかにも暴発しそうな娘だもんな」
そう言われると、またしても膨れっ面になるヴィナー。俺は無視して先を続ける。
「火属性に相性が良いのは、赤系統の宝石や輝石、紅玉や柘榴石とかだな。風属性には緑系統の物、翠玉や翡翠がおすすめだ」
へえ──と感心するヴィナーに、「これは基本中の基本だぞ。いったいどうやって魔法を覚えたんだ」と逆に呆れてしまう。
「ぅう……近所の元魔法使いのおばあちゃんに、こっそりと教えて貰っていたのを、自分なりに研究して──本も色々読みましたけど、そんな事、書いてなかったし!」
ある意味才能は持ち合わせていたのかもしれないな、少々巡り合わせが悪かったらしい。何故母親は彼女に魔法を教えないのか、それはまったく分からないが、今は錬成についてヴィナー達に学んで貰うとしよう。




