鍛冶屋が完成しました
年長者から見た若人、若人から見た年長者。そこにある違いを「異質なもの、価値の無いもの」と真っ先に思うのは、それこそ思考停止した証。違いから学べない事こそが愚か者である証明になる。
気をつけましょう。相手の立場になれないと開き直るのは、恥ずかしい事(無知)です。
翌朝になると体調はかなり良くなった様に感じた。後は中枢渦(チャクラ)が回復し、体に流れる気の量が増えれば体の方も元通りになるだろう。
柔軟体操や簡単な筋トレをしてから──小鉢植物園の水やりや、神々への朝の祈りを行い、仲間達と朝食を取る。
今日の冒険には昨日に引き続きリゼミラも加わり、中級難度の転移門の中でも困難な場所へ向かう事で、仲間達の意志は決定した。
仲間達を見送りしばらくすると、建築作業員がやって来て、鍛冶屋が完成したと告げた。
「早いな」
俺は思わず口にした。作業員も「そうですね」と相槌を打ち、投入された作業員数が多かったので、それも当然かもしれませんが、とも言った。
宿舎に残っていたカムイとエアネル、ニオとフィアーネと共に宿舎の斜め前にある鍛冶屋へ向かう。
そこには確かに立派な二階建ての建物があった、白く塗られた壁。硝子を使った窓なども確認できる。
宿舎側に造られた「黒き錬金鍛冶の旅団」の本拠地、その入り口の扉の横に「黒き錬金鍛冶の旅団・拠点」と銘打たれた板金が架けられている。
「おお──、なんか物々しい。いかにも旅団っぽい感じだ」
俺がそう口にするとエアネルが突っ込む。
「いや、旅団でしょう。私達は」
「団長がそれを言いますか」
とカムイも続けて口にする。
俺は初めて知った、とでも言う感じで「おお、そうだったな」と応え、入り口の扉を開ける。
中は玄関口から広々とした広間が広がっている。──棚や机や椅子を置く予定なので、今は広い状態なだけだ。壁には武器を架けて置ける鉤が取り付けられた場所があったり、黒板が設置されている壁もある。
「設計図通りだな」
左側に続く扉が二つ、奥に続く扉が一つあり、建築管理を担当していた者が、奥の扉を開けて鍛冶屋の方へ行きましょうと言った。
「あちらで作業員達が待っています」
奥の扉──それは鍛冶屋に繋がる扉だ。
広い部屋の床板を踏みながら扉へ近づいて行き、観音開きの扉を開けると、そこには大勢の建築作業員が立って居た。
鍛冶屋には大きな煙突の付いた炉が二つ、作業台なども用意されていた。おそらく先ほどの旅団の入り口広間と変わらない広さの部屋だろうが、今は多くの人間で狭くなっている。
「こちらへ、床板の一カ所がまだ釘を打ち終えていません。旅団長兼、鍛冶師であるオーディスワイアさんに、それを打ってもらいます。それがこの建築現場での最後の仕事となります」
そう言って俺は金鎚を手渡された。指定された場所に行くと、床板に一本だけ釘が突き出た場所がある。──もう七分目くらいは打ち込んであるが。
俺はその釘の前に屈み込むと、金鎚を振って、一回、二回と釘を丁寧に打ち込み、最後の作業を手伝った。
周囲に居た建築作業員達が拍手を送る中、よっこらしょと立ち上がって金鎚を返すと、拍手を止めるよう身振りで示す。
「まずは建築作業に携わってくれた多くの作業員の人々に感謝を、この短い期間でこれだけの物を造れるとは驚きです。俺も鍛冶師として負けないように励んで行きたい、そう思えました。ありがとう。そしてお疲れ様でした!」
俺は彼らに拍手を送る。
すると旅団の仲間がそれに応え、そして建築作業員達もまた拍手をして、それは大きな物になった。数十人が手を叩き、その音が壁に反響するとわっと歓声も上がり始める。
彼らは口々に「お疲れさまでした」とか「ご苦労さんでした」と言った言葉を掛け合って、互いの仕事を称え合う。
こうして鍛冶屋や旅団の拠点、住居などが完成したのである。
建築作業員が帰ると鍛冶場が広々とする。
鍛冶場の奥には倉庫に繋がる扉や、外へと通じる出口などがあり、高い天井には発光結晶を使用した照明装置が取り付けられていた。
窓も風が通り抜け易いように設置されている。──他には床の一部に取っ手を引き上げて使う収納庫も用意され、しっかりと設計図通りに、あらゆるものが丁寧に造られていた。
何よりも炉だ、耐熱性に優れた頑丈な炉。これであらゆる金属を加工する事が出来る──それが、二台も設置されているのだ。
「暑さも二倍だな……」
壁の上部にある──熱を逃がす為に設置された、小窓なども用意されてはいるが、鍛冶場は暑いものだと諦めるしかない。
後は徒弟を呼んで──そして俺の体が回復するのを待つしか無さそうだ。……鍛冶場を新築すると決めた時には、こんな体になるとは微塵も考えなかった。
そういうものだろう、己の未来を見通す事など誰にも出来ない──いや、他人の未来さえもだ。
俺が冒険で片脚を失った時もだ、誰一人として俺が脚を失って冒険から戻って来ると予想していた者は居なかった、……俺自身もだ。
人の行く末とは分からないものだと、つくづく思う。
だからこそ、徒弟の未来にも期待を持っておこうと考える。たとえ今はずぶの素人であっても、将来は俺を超える錬金鍛冶師になるかもしれない。
その様に考えれば時に厳しく、時に優しく接する事が出来ると思うのだ。師と弟子の関係であっても、いずれは立場が逆になるかもしれない、そう思えば相手に対する気持ちにも、上下関係だけでは無い、相手に対する敬意の様なものを持って接する事も、出来るのではないだろうか……




