慌ただしい日常
翌朝──朝食を食べ終えて早々に、レーチェ達が都市ウンディードへ遠征に出向する。
五人の仲間達を見送っていると、そこへリゼミラとアディーディンクがやって来た。
「あれ? あの子ら、もう出て行くのか? 早いねぇ──オーディスは体の方はどうなんだ?」
リゼミラは、まくし立てるみたいに質問をぶつけてくる。
今朝は寝台から起き上がるのに、体の痛みを感じずに布団から出る事が出来た、体力も徐々にだが回復してきているのを感じる。
「大丈夫だ、問題ない」
じっと俺を見ていたリゼミラが、後ろのアディーに目配せする。
「……気の流れが微弱だけど戻り始めているみたい、けど、このままだと鍛冶屋の仕事とかは出来ないかもしれない」
俺の身体を探査魔法で調べていたアディーが心配げに言う。
「そんなに悪いの?」
「筋力はある程度、戻っていると思うけど、持続して使おうとすると筋肉がすぐに痛んだり、力を入れる事が難しくなると思う」
アディーの説明を受けてリゼミラが「問題ありまくりじゃないか」と呟く。
そこへ、ニオとフィアーネがやって来た。彼らは革の籠手や鎧を身に着け、鉄の剣を腰から下げている。
「あれ? この子らは?」
「昨日入ったばかりの新人だよ、ニオとフィアーネだ」
そう紹介すると少年少女は「よろしくお願いします」と頭を下げる。
「それより、子供達は平気なのか?」
リゼミラとアディーの子供達を心配して尋ねると、アディーの母や姉が留守中に子供達の面倒を見てくれる事になったらしい。
「安心して冒険に出られるってもんよ」
リゼミラの言葉に、ええい、この冒険脳め! と俺は心の中で悪態を吐きつつ、リトキスらはウンディードに遠征に出掛けたのだと説明する。
「え! ウンディードに開いた新しい転移門⁉ あたしも行きたかったのにぃ」
「昨日の夜に急遽決まってな。水玉葱という野菜が気力回復に効果があるというので、それで俺の体調が良くなればと──」
そう説明するのも若干照れ臭いものがある。
「……まあ、そういう訳だからお前らには、残っている仲間達と冒険へ行ってもらう。その他は新入りの訓練相手などだ」
新入りの訓練相手としてリーファとレンネルが残る事になった。ちなみに若手の育成訓練に付き合うと、旅団から給金の様な物が出るのが一般的だ──出さない所もあるし、出たとしても冒険に行った方が稼げるだろうが。
しかし、若手を育てるのは結局自分の為でもあるし、かつて自分が通って来た道ならば、そうするのが当然だと知っているだろう。
持ちつ持たれつというものだ。それが出来ない者は、ここフォロスハートでは愚か者と呼ばれる。
四名が庭で訓練を始めると、すぐに玄関の扉を叩く者が現れた。──やけに熱心に扉を強めに叩いている。
「はいはい、どなた様ですか」
俺が警戒して扉を開けずに声を掛けると、向こう側から聞き覚えのある声と語尾が聞こえてきた。
「にゃっ⁉ オーディスにゃのか? 混沌の魔物にやられて臥せっていると聞いていたのにゃ、無事なのかにゃ?」
扉を開けるとそこには、いつも通り大きな荷物を背負った素材屋、猫獣人のナンティルが立って居た。
「どこで聞いたか知らんが、色々と話が盛られているらしいな? 俺が倒れたのは事実だが、混沌の魔物にやられた訳じゃなく、大地の気を取り込み過ぎた──まあ、それはいい。それよりどうした」
赤毛の猫獣人はぷるぷると震え出すと、急に彼女は怒り出した。
「どうしたじゃにゃいにゃ! 心配して来てやったのにゃ!」
フシャァ──ッ、と威嚇するみたいな音を立てる。
「わ、分かった……悪かった。だが、死にかけたのは本当だ。今も勁が弱まって、運動するのも大変なくらい弱っているんだ」
むっ、と急に目を細めるナンティル。
「……確かに『勁の輪』が小さく薄い──修復したばかりにゃ? 勁の輪が傷ついたのは本当らしいにゃ、……立ち上がれるまで回復できて良かったにゃ。以前、勁の輪が壊れた者を見た事があるにゃ、衰弱して死ぬまで数日ほどだったらしいにゃ。壊れなくて良かったにゃ」
彼女らはチャクラの事を「勁の輪」と呼ぶようだ。
「しかし、このままだと鍛冶仕事もこなせなくなってしまう。……なんとか回復する方法を知らないか?」
そう尋ねると彼女は、今まで見た事の無い真剣な表情をして考え込む──
「……わかったにゃ、これから管理局と──パールラクーンの神アヴロラに相談するにゃ。少し待つにゃ!」
彼女はそう言うと何も売り付けずに去って行った。
「管理局と神アヴロラに……? いったいどういう事を考えているんだ──? というか、ナンティルって何者──」
俺は大荷物を背負って走って行く彼女の後ろ姿を目で追いながら、そういえば、あの業突く張りの素材屋の事を、そんなに知らない事に──思い当たったのだった。
獣人ナンティルの謎の行動──そこには意外な彼女の秘密が……




