遠征と水玉葱
暖かい評価や感想を頂けると嬉しいです。
猫の成長を見守る様な気持ちで読んでもらえるとありがたいですね。
「話が纏まりましたわ」
突然レーチェがそう言ってきた。
俺は子猫とライムを膝の上であやしながら椅子に座っていたのだ。
「ん? 何が?」
「何がではありません、遠征についてですわ」
彼女は呆れながらも、早速明日から三日ほど都市ウンディードに向かう事にしたと説明する。
「急だな──相変わらず」
「あなたの体調を治せるかもしれないと聞いて、皆やる気になっているのです。感謝してもよろしいのではなくて?」
俺はうん、と返事してから少し考える──
「それはありがたいが、新人の育成の為に訓練をして欲しいのだが」
そう言うと彼女は「問題ありませんわ」と自信を覗かせる。
ウンディードに行くのはレーチェにエウラにユナとメイ、それにリトキスの五人だけだという。
「向こうで手に入れた物は、その日にすぐ届くように、夕方前の馬車で送り届けるよう手配いたします。水玉葱はすぐに食べて下さいましね」
「まだ採れると決まった訳でも無いだろうに」
店で売られている物があれば、それを昼前に送って差し上げますわ、とレーチェは返してくる。確かに、店で売られている可能性もある──
「なんにしても、新しく開いた転移門だからな、注意して掛かれよ?」
俺が心配事を口にすると「もちろんですわ」と残して彼女は去って行く。
食堂から部屋に戻ろうとすると、ユナが子猫を抱きたいと手を出してくるので、彼女の手の上に子猫を乗せてやる。
俺はライムを抱き抱えながら立ち上がり、食堂を後にして廊下を歩いて行く。
「メイが猫に懐かれないと言ってむくれていました」
と、後ろをすごすごと歩いているメイを顎で指す。
「彼女の中の、心を許した相手にしか気を許さない様な──そういう部分が和らげば、少しは猫も気を許してくれるかもしれないけどな」
階段の手前まで来ると、巣箱を覗き込む──そこには二匹の子猫が身を寄せ合って綿織物にくるまって眠っている。
「かわいい」
ユナはそう呟いて抱いていた子猫を二匹の近くに降ろしてやる。俺もライムを巣箱の中にそっと置いて、しばらく猫達の様子を窺っていた。
メイは離れた位置から猫達を見守っている──ちょっと可哀相になってきた。
眠っている子猫を一匹、そって抱き上げると、メイの前に差し出す。
「優しく撫でてやれ」
少女は手の中で眠る子猫に怖ず怖ずと手を伸ばし、そっと頭を撫でる。
「かわいい」
と、ユナが漏らした言葉を口にするメイ。
子猫は耳をぴくぴくっと動かして、くすぐったがっている様だ。
「今は子猫でも、ライムみたいに大きくなるんだよな、こいつらも。メイも技術的には大人顔負けだが、心も成長するといいんだが」
子猫はじっとしていたが、丸まって眠たそうにする。俺はそっと巣箱の中に子猫を帰す事にした。
ライムが横になっているお腹辺りに降ろしてやると、ライムは俺の手にそっと前足を伸ばしてきた。俺がその足の肉球を揉んでやると、母猫は大きな欠伸をしてくつろいでいる様子を見せる。
「オーディスワイアさんに凄い懐いてますね、ライムも」
「やっぱり子猫が生まれた時に、色々としてやったからな。あの時は俺しか宿舎に居なかったし」
ライムは目を瞑って眠ってしまう。
彼女にとっても子育ては大変で、さらにメイの様な大きな「外敵」に子供をさらわれてしまう危険から、子供を守ってやらねばならないのだ。疲れもするだろう。
「お疲れさん」
俺は母猫に声を掛けると部屋へ戻る事にした。




