大勢の入団希望者
火の神と巫女達はすぐに帰ってしまった。火の神は力の制御に注力する為にフレイマに戻らなければならないらしい、わざわざ俺の状態を確認しに来たという訳だ。
ミーナヴァルズの顕現体である燃え盛る大蛇は現在、非公開となっており、その力の制御に神官らも苦心しているのだと巫女は語った。
俺の作った象徴武具がそれほどの力を引き出すとは思いもしなかった。宝石や象徴的意匠を施した事が功を奏したのだろうか。
象徴武具の事を考えると、鍛冶師としての役割を思い出し、早く復帰する為にと床に手を付いて腕立て伏せをしようと試みるが、五回もしないうちに腕の筋肉が突っ張るのを感じ、へたり込んでしまう。
「筋力まで落ちるのか──? いや、持久力や回復力の問題か、少し休ませてから徐々に鍛練をした方がいいか……」
せっかくやる気になっていたのに、身体が付いてこれないとは……がっくりとしながら立ち上がると、窓の外から何やら音が聞こえる──カムイとメイの二人が格闘の訓練をしている様子だ。カムイは健闘していたが、無手での戦いはメイの方が数段上手だ。
小さな体を左右に振ってカムイの脇腹と胸を殴りつけるメイ。防具を身に着けているとは言っても、容赦の無い少女の攻撃に思わず後退して膝を折る。
見ているとメイにさんざん殴られた腹筋が痛み出す様な錯覚を覚える──
いたたまれなくなった俺は、廊下や食堂床などを掃除する事にした。少しずつでも体を動かして運動に慣れさせて行こうと思ったのだ。
モップを取り出すと廊下を行ったり来たりする──そうしている俺が気になったのか、子猫達が巣から出て来て、モップの先に付いた房状の雑巾に跳び掛かる。
「あ──あ──、やめい。掃除の邪魔だぞ」
猫の本能か、房状の物にじゃれついて遊び始めてしまう。俺は仕方なく二匹の内の一匹を摘み上げると(一匹は巣で眠っている)、ライムがもう一匹の首根っこを噛んで運び去って行く。
「ここで大人しくしていなさい」
巣箱に子猫を降ろすと「みぃ──みぃ──」と鳴きながらゴロゴロとひっくり返ったので、その腹を指で突くと、子猫は指を掴まえたり、甘噛みしたりしてじゃれつく。
ライムが運んで来た子猫も加わって小さな猫達に指をかじられたり、爪で軽く引っ掻かれたりしながら遊んでやった。
よっこらしょと立ち上がり、モップを手にして廊下の掃除を再開すると、庭で訓練をしていたカムイとメイが宿舎に戻って来た。
「団長、入団希望者が来ましたが……どうしますか?」
さて、ここで旅団長ならどうすべきか。
① まずは面接、あるいは実技試験をする。
② 若手は即採用、育てるのが旅団の仕事。
③ これ以上増えても困るから帰ってもらう。
さあ、どれだ。
取り敢えず見てみよう、そう返事するとカムイが困った様な顔をする。
「それが……その…」
「なんだ、何か問題がありそうな奴なのか」
「数が凄いの」
とメイが言う。
そういえば庭が騒がしい。
「え、数? 五人くらいか」
「ううん、十人以上」
「……帰ってもらおうか」
俺は急に気力を失ってしまった。五人の面接と試験でも今は厳しいのに、十人以上とか聞いてないよぉ〜~
しかし、せっかく尋ねて来てくれたのにいきなり帰れと言う訳にもいかない。
「取り敢えず、話しを聞いてみよう」
俺は二人と共に宿舎を出て庭に集まった顔触れを見てみた。
年齢は十代後半から三十代前半の者まで集まっている様子だ。──全員が私服姿で、比率的に言えば男の方が少し多いだろうか。
「あ──、なぜ一遍にこれだけの人数で来たのか。誰か説明してくれないか」
すると顔を見合わせる冒険者の面々。それだけで、こいつらが同じ旅団に居た事を察するに充分だった。
「僕達は『栗毛の駿馬旅団』に入っていたんですがーー先日、旅団長が急死してしまって……それで旅団は分裂してしまった──みたいな感じです」
みたいな感じ……だと?
「混沌の侵入で死んだ者は居なかったと聞いたが」
「いえ、病死です。心臓発作じゃないかと医者は言っていました」




