動物磁気や生命について
パラケルススとかメズマーとか、オカルト? 化学? それは僕にもわかりません(キリッ)
床に横になってそのまま眠ってしまったようだ。絨毯の上で転がったとは言え背中が痛い……お腹が暑くなっているのを感じる──お腹には猫のライムが乗っているはずだ。それで暑くなっているのだろう……そう思って腹の方を見ると、なんだか凄い事になっていた。
三匹の子猫達も俺の上に乗って眠っていたのだ。胸の上に一匹、臍の上に乗った母猫に寄り添って眠る二匹の子猫。
胸の上で眠っている子猫は丸まっており、他の一匹は母親の腹に顔を突っ込む格好で、もう一匹は前足で目を塞ぐ様にして寝ていた。
自分の胸の上で眠っている小さな猫を撫でようと手を持ち上げると──痛みは無かった。
勁が傷ついてからは、ちょっとした動作で筋肉を使う度に筋肉痛に似た痛みを感じていたのだが、それが無い。
眠って回復したせいか? そんな風に考えたが、どうやら違う事に気がついた。丹田に気が流れているのだ。
猫から流れる微弱な気が丹田に伝わりでもしたのだろうか、弱い気の流れが丹田から身体に流れているのを僅かだが感じる。本当に極僅かなものだったが。
錬金術の大家、パラケルススの提唱したムーミアの様な──一時期、動物磁気と呼ばれた、これと似た概念があったらしいが──それの影響によるものか、猫から流れて来た生命の力が、俺の傷ついた勁に影響して回復しているのだろうか。
気は通常は生命の維持の為に体内で発生し、循環するが──それは外部にも影響を与えるものである……いや、与え合うものである。
「にぃゃぁ──」
胸の上で丸まっている子猫が撫でられるのを嫌がって鳴き声を上げる。
「あ、すまん」
子猫は指を甘噛みしている、そっと体を包むみたいに手を添えてやると、子猫は安心した様子でまた、丸まったまま眠ってしまう。
なんにせよ、体の痛みが取れるならありがたい事だ。これからずっと痛みが引いてくれる事を願いながらそのままじっとしていると、半開きのままになっているドアを誰かが叩いて、部屋の中へ入って来た。
「だ、大丈夫ですか」
現れたのはカムイだった。
「平気だよ、いま猫達が治療してくれているんだ。放っておいてくれ」
そう言うとカムイは「は、はぁ……」と信じていない感じで返事し、部屋をそっと出て行く。
猫達もしばらくすれば勝手に部屋を出て行くだろう、それまではじっとしている事にした。
仲間にも迷惑を掛ける事になってしまった。宿舎に残り、俺の食事の世話をする者を一人か二人、残すようにするとレーチェが言っていたのだ。
それ以上に、このままでは錬金鍛冶師としての仕事も出来なくなってしまう。これでは仲間達の装備品を強化するという事が出来ない、それは困るのだ。
何の為に錬金鍛冶師の道に入ったか、脚を失って冒険を諦めた俺が、この道を選んだのは──冒険者の力になれると考えたからだ。このまま錬金鍛冶を廃業する訳にはいかない。
「何か手を考えないといけないか……」
勁の修復に必要な薬や食べ物の事など聞いた事は無いが、何かあるはずだ……関連し合うものが存在するのが世界なのだ、まったく何にも使えない物など無いはず。
丹田に気を集めて全身に行き渡らせる──そんな作用を促す物が必ずあるはずだ。
なにやらお腹の辺りが温かく濡れてきた……
「おいおいおい、嘘だろ……! やっちゃったよ、この子……!」
お腹で眠っていた一匹の子猫が寝小便をしたのだ。
「ニャァ──」
母猫を抱き上げると、彼女は濡れていなかった、どうやら毛布に染み込んだ物はそれほど多くは無かったようだ。
ライムと子猫達を絨毯に下ろすと、お漏らしをした子猫の体を毛布で拭いて、俺はおしっこが絨毯や床に付かない様に毛布を手にし、庭へ持って行こうと、よろよろと部屋を出る。──するとメイが廊下を歩いて来た。
「団長、どうし……おなか、濡れてるよ」
「お腹に子猫を乗せていたら、おしっこを掛けられてしまった……悪いが、毛布を洗ってくれるか」
彼女は二つ返事で「わかった」と言って毛布を手にする。
「上着は?」
「ああ、これは俺が洗濯機に掛けておくよ」
こうして俺達はそれぞれの理由で庭へ出る事になった。




