猫達との戯れ
第六章の始まりです。
今回の話は主人公が回復していく過程で、多くの人々から手を貸してもらう……という、今までとは逆のお話になります。日常回多めですね、それではこの物語を楽しんでもらえればと思います~~
第六章を改稿しました。読みやすくなるよう心がけ、少し言葉を付け足したりした場所もあります。
月が変わり、ほんの少し寒くなった部屋の中で目を覚ます。重い体を寝台横に移動させ、布団から足を出すだけでも苦労する。……未だに身体のあちこちが痛み、力も入らない状態が続いている。
義足は予備の物を使っている──そろそろ新しい義足を作ろうかと考えていた矢先に、作る機会を奪われてしまった。今の俺では金鎚を振るう事すらままならないだろう。
徐々に回復していくはずだが、当分の間は老人になった気持ちで、この身体と付き合う必要がありそうだ……
部屋を出て玄関に向かうと、階段の近くの少し広くなった所に猫達の木箱の部屋が置かれていた、そのすぐ側に猫用便所も置かれている。
木箱に付けた薄い板の一部が切られて子猫達が通れる入り口が作られている──よろよろと近づいて、その中を覗こうとすると、木箱の中に三匹の子猫を抱いた親猫──ライムの姿があった。
「ニャァアァ──」
俺の顔を見るとライムが鳴き声を上げた。子猫達におっぱいをあげているところだった、子猫達は懸命に乳を吸っていて、俺が近くに来ても気にも止めない。
壁に手を付きながら腰を下ろすと──子猫達をそっと撫でてみる。思えば、この小さな猫を素手で触るのは、これが初めてだった。小さな体を右に左に動かしながら乳を吸っている奴も居れば、じっと動かずに乳を飲む事に集中している奴も居る。
「お前ら生まれたばかりの猫にも、ちゃんと個性があるんだな」
やたらと揺れ動きながら母猫の胸に縋り付いている子猫を撫でてやると、急に動かなくなった。撫でられるのが嫌なのか、良いのか、全然分からない……
ライムは手前の子猫を舐めて毛繕いをしてやっている。俺はそんな母猫の頭を撫でると立ち上がり、玄関にある小鉢植物園に水をやってから宿舎の外に出る。
随分と久し振りに焔日を見上げた気がする。──いつもやっていた通り、火の神に祈りを捧げると、今度は水の神の居るウンディードの方角を向いて、水の神に祈りと──俺を助けてくれた感謝を──改めて心の中で述べておいた。
新鮮な空気を肺に取り込むと宿舎の中へ戻る。
玄関の扉を開けるだけでも一苦労だ。この扉がこんなにも重く感じるなんて、我ながら引く。
「やれやれ、勁の再生をしないと体が回復し辛いって言うのに」
今は呼吸法で勁に気を流すのも危険なのだ、ゆっくりと時間を掛けて勁が自然回復するまで待つしか無い。
「ニャゥゥ──」
と、通路の真ん中に座っている子猫が、こちらを見て鳴き声を上げる。さっき撫でたら動かなくなった子猫だ、青白い毛が混じった毛色をしているその子猫は、「おぅ」と声を掛けると近寄って来た。
靴を脱ぐ為に段差に腰掛けると子猫は俺の脚にすり寄って来る、もっと撫でろという事だろうか。俺は小さな子猫を抱き上げると両脚の上に乗せて優しく撫でてやる。
こんなに小さな猫が居るとなると、普段の生活も気をつけないといけないなと改めて思う。ボ──ッとしていたら踏み潰してしまいそうだ。
「猫踏んじゃった、猫踏んじゃった、猫踏んづけちゃったら……なんだっけ?」
ど忘れして次の歌詞を忘れてしまった。
「なんですの? その言葉は……」
俺はぎくりとした、急に背後からレーチェが現れたのだ。
振り向くと相変わらずぴっちりと体を包む、小獣人族が作る衣服を身に着けて、体の線を見せつける様な格好をしている。
「ぉぉおおはよう、急に背後に立つなよ、心臓が止まるかと思ったぞ」
「……それより、今の言葉はなんですの? 聞いた事の無い言語でしたが……」
「ぉ、ぉお……それは、あれだ。魔法の呪文を覚える時に使った『隠呪』っていう奴な。懐かしいなぁ」
言いながら俺は立ち上がり、片手で持った子猫をレーチェに手渡す。
「ひぎゃぁっ⁉ ねっ、猫ですわぁ!」
ビクッと手を上に動かしたが、さすがに投げ捨てるまではいかなかった、俺はほっとしながら、その手から子猫を取り上げる。
「一瞬、投げ捨てるかと思って焦ったぞ……いい加減慣れろよ、猫の眼がお前に呪いを掛ける訳じゃあるまいし……」
俺の言葉に子猫が「にゃぁ──」と弱々しい声を上げて彼女に抗議する。
「し、仕方ありませんでしょ、苦手なのですから……そんな事よりさっきの言葉は──」
「よ──し子猫よ、俺の部屋に入れてやろう。その後、猫じゃらしで遊ぼうな」
すっとぼけてその場を逃げると部屋の中に入り、寝台の上に乗せる──すると、みぃみぃと必死に鳴き声を上げて母親を呼び始める。
「おいおい、誘拐した訳じゃないんだから……分かったよ、ほら」
そう言いながらよろよろとドアに近づいて開けてやると、ちょっと開いたドアの隙間からライムがするっと入って来た。
「そんなに心配していたのかお前は……」
猫じゃらしで遊ぶのは止めにして、二匹がどんな行動をするのか観察していたが、どうやら寝台の上に乗って一緒に横になるだけらしい。
「毛布に爪を立てるなよ」
そう言いながら、爪を研ぐ畳みたいな物も作ってやる必要があるのかと考える──
すると廊下の方から「食事ができましたよ──」と言うレンネルの声が聞こえた。二匹の猫を寝台から下ろすと、床に敷いた座布団に乗せて、部屋のドアを少し開けたまま食堂へ向かう事にした。




