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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第五章 混沌の海と神々の大地

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騒動の始まり

気づくと誰かの膝に頭を乗せて眠っていた。──身体の感覚が酷く曖昧あいまいで、自分がどこに居るのかすら判然としない。

 膝枕というのは何となく分かるのだ、そこに誰かが居るという事も。目を閉じていても──分かるのである。


「夢か」

 そう思い、俺は目を開けようとするのだが、身体が言う事を聞かない。身体と精神の間にあるものが抜け落ちてしまったかのようだ。──それが何なのか、自分にも分からないのだが──それが無いと意識を持ちながらも身体を動かす事は出来なくなってしまう……そんなものの事だ。


「大丈夫ですよ、今は静かに──このままで」

 その声は水の神アリエイラ、そっと頬を撫でる感覚がおそろしく遠い。

「無事だったか、危ういところだったのだぞ」

 その声は──先ほどの戦いの中で聞こえてきた……そうだ、地の神ウル=オギトの声だろう。


「膨大な量の気脈の力を受け入れ、さらに自らを受け皿として剣による攻撃力を倍加させるなど、危険極まりない。全身の霊脈(けいの霊体版の様なもの)がずたずたになるのをまぬがれたのは僥倖ぎょうこうと言うべきか」

 彼がどんな顔をしてそう言っているのかは分からなかった、俺が地の神の顔を見た事が無いせいだろうか。巨大な人の姿をした顕現体けんげんたいなら見た事があるのだが。


 目を閉じたまま俺はアリエイラ達の話を聞く事になった、ウル=オギトの言った霊脈の崩壊を起こしかけたせいなのか、言葉を発する事も出来ないのだ。


「まずはあなたに感謝を、オーディスワイア。混沌からの侵攻はあなたと、あなたの旅団の仲間達によって無事に事なきを得ました」

「うむ。まさか火の神に渡した象徴武具で、あれほどの力の増大が引き起こされるとは想定外だった。火の神が力を暴走させ、それを抑え込むのに風の神が尽力しなければ、被害はもっと大きなものになっていたかもしれん」


 増大した火の神の力を受けた焔日ほむらびがフォロスハートを覆う結界を破壊し、それによって混沌の侵入を許してしまった。


「お前のせいでは無い、本来は力を弱める儀式だというのに、焔日の威力を増大させたミーナヴァルズの失態だ。あいつは普段から節操というものを持たぬからこんな事になったのではないか」

 俺はそんな事は──たぶん無い、と言いたかったが、やはりしゃべる事は出来ずにいた。

 俺が考えを口にしようとした事を感じ取ったのか、アリエイラが俺の唇に指を当てる。


「起きてしまった事を責めても仕方がありません、これからは象徴武具で手に入れた力で、フォロスハートの人々を守る事も出来るのですから、それを発見できたのは良かったと思います」

 混沌の軍勢との戦いを見ていたアリエイラとウル=オギトは(ミーナヴァルズとラホルスは結界の修復や火の神の力を抑え込むのに手一杯だった)、象徴武具で増大した力を使って人々に力を振り分ける事が可能になったらしい。


 ウル=オギトは大地の気を外気勁としてまとわせる事で人に力を与えられると知っていたが、人体に大きな負荷が掛かる可能性もあったので、無闇には使えないと考えているようだ。


「現にお前は危うく死にかけたのだ、もちろんアリエイラがお前を簡単に死なせはしないだろうと思ってはいたが──それでも肝を冷やしたぞ。気脈の力を内気勁に通すなど、自殺行為に等しい。……もうやるなよ」

 内気勁に通して剣に集中させ、剣圧と共に圧縮した気を放たなければならないので身体の中を通過させて、自分の意志で気を操らなければならなかったのだ。剣に気を纏わせただけの攻撃では、あの巨獣に損害ダメージを与える事は出来なかっただろう。


 死を──あるいは再起不能になる覚悟をして振るった剣の一撃だった。


 俺は命を繋ぎ止めてくれた水の神に心の中で感謝し、彼女の温もりを遠くに感じながら、心地良い幸せな気持ちを抱いて、そのまま深い眠りに落ちていった……

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