やって来た災厄
朝になっていつも通り、焔日様にお祈りを。そう言えば、燃え盛る大蛇の姿を遠くから見た事はあるが、人の姿になった所を見た事が無い(聞いた話だと女性なんだとか)。
人の姿と言ったが、大蛇が人の姿になるのでは無い。燃え盛る大蛇はそのまま残り、神の精神体が人の形を持って歩き回るのだ。
ちなみに地の神の精神体は──ぷっ、あの屈強な巨人戦士が、あのちっちゃい姿になっているかと思うと──
いかんいかん、それよりも仕事だ。
今日は強化錬成が七件、付与錬成が三件だ。昨日に比べれば余裕だな──そんな事を思っていると、鍛冶場の入り口から男が現れた。
「よぉ、どうだい景気は?」
なんだこの馴れ馴れしい奴は……そう思っていたのが顔に出たのだろう、するとそいつは。
「俺だよ、俺、俺!」
「なんだ、新手の詐欺かなんかか?」
「いやいや、あんたに数日前に鋼の剣を強化してもらったじゃないかよぉ」
覚えてない? と尋ねる男。
「ぁあ、あの時の。すまん、男はどうでもいいんで、三日会わないと忘れちまうんだ」
俺がそう言うと男はつれねぇなぁ、とか言いながら、「あんたの腕の事をあんなに宣伝してやったのによぉ」と付け加える。
「お前だったか、ここのところ異様に忙しくて、ぶっ倒れるところだったぞ」
「いやいやいや、忙しいのは良い事だって、昔から言うじゃぁねぇか!」
おれは無視して強化錬成の準備をする。
「いやね。今日来たのは他でもねぇ、あんたを誘いに来たのさ」
「だが断る」
「まだなんにも話してねーだろーがよぉっ!」
男──名前を名乗ったが、見た目が不細工な犬みたいな顔なので、ブサイヌとでも呼んでおこう。
ブサイヌの話はこうだ。自分の所属する旅団「金の禿鷲」の専属の鍛冶師として働かないか、という誘いだ。
聞いた事の無い旅団だ。「金」などと付けるのは、相当実力を付けてから名乗るべきだと、暗黙の了解でなっていると思っていたが──それは昔の話なのかもしれない。
「禿げてる奴御用達の旅団なんてあったのか、知らなかったよ」
「禿鷲だ! ……それに俺も禿げちゃいねえぇよぉ」
「とにかく無理だ、一応先客が居るからな」
俺がそう言うと舌打ちをして、「せっかく儲けさせてやろうと思ったのによぉ」とか言っている。
俺は奴を無視して作業に戻ると「後悔しても知らねえぜぇ」と、どう考えても悪役の口にする台詞を残して帰って行った。
それにしても「金の禿鷲」とは、変わった名前を選んだものだ。




