送夏の儀で起きた異変
起きてしまった災厄の訪れ。
冒険から離れていたオーディスワイアが混沌から現れた巨大な化け物に勝てるのか?
次話から終わりまで、どう転ぶか分かりません! なるようにしか為らない! 乞うご期待‼
火の神ミーナヴァルズを取り巻く環境は、ここ一月の間に厳しいものになっていた。常にお付きの者が彼女の側に控えており、自由奔放な気質を持つ彼女は窮屈な思いをしただろう。
そうは言っても慣例の行事だ。──今回はオーディスワイアが造った魔法の剣の効果を持つ「象徴武具」を使う事で、神々の精霊力を高める事も出来るようになったのだ。これを、この機会を活かそうと、巫女や神官達がいつも以上に気を張って各々の仕事に取り組んでいた。
儀式は朝から始まり、正午に終わる予定だ。
この儀式を以って焔日はその威力を弱め、冬を模した季節へと変わって行くのだった。
──そのはずだった──
正午にそれは起こった。火の女神が象徴武具の大剣を振り翳し、空へと高く突き上げてそれを振り下ろすと、焔日は突然に、その威力を増したのだ。
それは今までに無いほど増大し、大地を危険なほど温め始めた。
それ以上にまずい事が起こった。
フォロスハートの大地を混沌の侵蝕から守り、混沌から侵攻してくる魔物共を退けていた結界が──破れてしまったのだ。
その結界は火の神と風の神が中心となって、維持しているものだったのだが、突如増大した火の神の力が風の神との力の均衡を崩し、結界は焔日の近くから崩壊を始めた。
その異変は多くの者が空を見上げていた為にすぐに気がついた、これはとんでもない事が起こったぞ、と誰もが口を揃えて言う。
真っ赤に焼けた焔日がやがて急速にその威力を弱めて行くと、その間隙を突いて混沌から大きな危機が舞い降りようとしていた……
*****
「まずいぞ、これは……!」
俺は空を見上げながら、結界の綻びから落ちて来る黒い影を見ていた。──側に居たエアネルとヴィナーに声を掛けて、すぐに武装して冒険へ出て行った仲間達を呼び戻すように言う。
「どどど、どうすれば……!」
「落ち着け! いいから『暗黒の鉱山』にはヴィナーが、『古びた城塞都市』にはエアネルが行って、閃光弾を三発打ち上げろ、気づいた者は皆、帰って来るはずだ」
三発の閃光弾──それはフォロスハートに急ぎ戻れ──という合図だ。これは管理局に決められた合図であり、全ての冒険者に共通の信号なのだ。
俺は二人に閃光弾を大量に持たせた。
「いいか、危険な場所に一人で向かう事になる、充分注意して行け。仲間達と合流する為に探しには行くな、あくまで転移門の側に居ろ、分かったな⁉」
二人はすぐに装備を整えると転移門へ向かって駆け出して行く。俺も自室に戻ると、久しく身に着けていない鎧──黒銀鉄鋼と竜革を使って造った物──や、小物入れなどを装備し、大剣を背負って庭に出る。
「ニャァ──」
白猫が三匹の子猫を足下に抱いた格好で、こちらに鳴き声で呼び掛けてきた。
「大丈夫だ、お前らはここに居ろ。すぐに片づけて来る」
空を見上げると結界が閉じ始めていた、ぽっかりと開いた真っ暗闇の虚空が青く染まり始めると、綻びは完全に消え去り、いつもの白々しいくらいの青空に戻っていた。
俺は意を決すると宿舎を出て扉を閉め、ざわめいている周辺の市民に声を掛けて管理局に向かえと指示を出す。
中央都市ミスランの近くに混沌の軍勢が舞い降りたはずだ、それも結構な大きさのものが含まれている。
今この街に残っている冒険者と、街を守る戦士達でどうにか出来る相手だといいのだが──
ともかく俺は、混沌が入り込んで来た方に向かって速歩きで進んで行く。覚悟などとっくの昔に出来上がっているのだ、こっちは……! 混沌に立ち向かう時に危険を恐れていては戦えぬ。
覚悟。ただそれを持つ者だけが強大な敵に立ち向かって行けるのだ、迷っている時間は無い。万全とは言えない状態であっても、この戦いから引き下がる訳には行かない。
例え、己の命と引き換えになったとしても……!




