三勇士の戦い
「金色狼の三勇士」が揃ったぞ、と旅団員が俺達を取り囲む、五歳くらいの男の子が怯えて母親の脚に縋り付いている。
その集団の中で困った顔をしているアディー、少し大人になってはいるが、元が童顔だった為に二十歳くらいの年齢にも見えてしまう。
青いさらさらの髪に印象的な緑色の瞳、加えて小柄な体躯。──少年の様な姿だが、両手で大事そうに愛娘を抱えている。
アディーはどこにでも居る普通の男が着る様な、上着とズボンを身に着けていた。この男がかつては、ミスランでも最高の魔法使いとして知られた「小さき大魔法使い」とは誰も思うまい。
「オーディスさん、おひさしです。本当に旅団を立ち上げたんですね、手紙をもらった時はびっくりしましたよ」
アディーはそう言いながら近づいて来た。
手紙……? 誰からのだ──と思ったが、そんな物を送る奴は一人しか居ない。
「リトキスも入団したと聞いて、うちのリゼも『オーディスの旅団に入れてもらおう!』とか言い出したんですよ」
俺がリトキスを睨んでいると、アディーが小さな女の子を差し出してきた。
「ほ──ら、リッカ。このおじさんがオーディスワイアさんだよぉ~~ほら、抱いてみてください」
三歳くらいの子供だろう、自分で立って歩けるはずだが、父に甘えているのか周りの大人達に怯えているのか、アディーの服をがっちりと掴んでいる。
「止めとけ、泣き出すぞ」
俺が言うのも聞かずに、三歳にしては小さな女の子を俺に手渡す──結構重い。
じっと俺の顔を見上げているが、ぐずり出す気配は無くてほっとする。
「ほぅらだいじょうぶ」
父親はそう言うが、その娘は俺の顔と父親の顔を交互に見て、何かを言いたそうにしている。
「でぃ、でぃーでぃー」
リッカはそう言いながら離れて行くアディーに向かって手を伸ばす。
「なんだ、ディーディーって、アディーじゃないのか」
「ディーディーはリゼが僕を呼ぶ時に使っているから、それを覚えちゃったんですね。は──い、おとうさんだよぉ──」
と、親バカっぷりを披露してくれるアディー、時間の流れを感じた瞬間だった。
父親の腕に戻ると、今度は俺の顔をじっと見つめるリッカ。するとどういう心境の変化か、俺の方に手を伸ばす。
「あら珍しい、この子があたし達以外に懐くなんて、滅多に無いんだから」
そう言ってリゼミラが木剣を手に、こちらへやって来る──しかも二本の木剣を手にして。
「あ──、ごめんね、リッカ。ちょっとこのおじさんに用があるの」
「いや、俺には無いが」
即効で断りを入れたが無視される、まあその辺は以前と変わらんが。
「あたしと勝負しましょう」
「だが断る」
その言葉も無視して、リゼミラはこう言った。
「あたしが勝ったらこの旅団──ええと、何だっけ?『黒き錬金鍛冶の旅団』? にあたしを入団させなさい」
周囲の連中から「ぉおっ」という、よく分からない歓声が上がる。この女の旅団入りを期待しているのだろうか。
「……冗談だよな?」
「いいえ、大マヂです」
俺がリゼミラを入れたくないと考えて、勝負に本気を出させる為のはったりだろう──旅団的にはかつて、絶対的な対人戦闘勝率を上げていたこの女を入団させるのは、結構なお話だが……この俺の個人的な感情は、それを激しく拒否している。
「防具も身に着けていないし」
そう言うとこの女は「手加減するから」とほざく。
「片脚を失っているんだが」
「わかってる、足を使って回り込んだりはしないよ」
周囲の人間は遠ざかって戦闘を見守る体勢に入っている、どうやら逃げられないみたいだ。
「わかった、やるよ」
こうして俺とリゼミラの六年振りくらいの対決が始まろうとしていた。
後半のルビ振ってあるところは、口で言っている事と、心の中で思っている事の違いを出しています。
念のため。




