象徴武具の大剣を届けにフレイマへ
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翌日の午前中には宿舎を出て都市フレイマへ向かう馬車に乗り、中央都市ミスランを出た。
遠征から帰って来たばかりだというのに、レーチェやリトキスは冒険に出ると言っていた。他の団員達も転移門を使って、冒険に出る準備をしていた。
ウリスは風精一角獣の角を使った弓を造る為に、弓職人の所へ出掛けて行った。
ヴィナーは覚えた魔法を試したいと息巻きながら、カムイらと冒険に向かったらしい。元気な連中だ。
馬車は畑の間を通ってしばらくすると、クラレンスの街に入った。──レーチェの実家がある街だが、詳しい事は分からない。妹が居るらしいのだが、何故かあまり話したがらない様子だ。
街の様子は多くの人々が行き交い、活力ある街だと感じる──ざっと見ただけでも店の数が多く、ミスランと然ほど変わらない賑わいを見せているのではないかと思われる。
その街を通り過ぎてフレイマまで数十分という所まで来ると、あの女神と会う心構えをし始める。
今回は依頼された物を届けに行くだけなので、渡したら早々に帰るつもりだ。──旅団員の防具を造る予定も入っていた。
あの女神がそれであっさりと俺を帰すかと言うと疑問だが、まさか閨に誘って来る事は無いだろう。夕食を一緒に食べ、酒に付き合えと言われるかもしれないが、長居すべきでは無い。
絡め捕られるな……逃げるんだ。
なにしろアリエイラとの一件があった後だ。どんな難癖を付けられるか分かったもんじゃない。とにかく自分は最高の仕事を果たしたのだと、火の女神に訴えるよりは、その女神の補佐役の巫女に訴えるべきだろうか。
地の神の巫女とは違うだろうが、形式を重んじる巫女の前で、まさか酒宴に誘うという事は無いだろう。
うん、これでいこう。
名付けて「巫女を味方に引き入れて無事帰宅作戦」だ。
馬車は神殿前広場に停まった。布で包んだ大剣を持つと神殿に向かう。神殿内の案内をする神官を捕まえると、神殿の依頼を受けて「送夏の儀」に使用する大剣を届けに来た者だと言って、巫女に目通り願いたいと告げる。
若い神官は「すぐに確認します」と言って神官達が使う通路に入って行った。彼が戻って来るまで神殿の奥へ向かう人々姿を眺める。彼らは神殿の奥にある本殿の深い穴の底で休んでいる、燃え盛る炎の蛇を見に行くのだろう。あの姿を見れば自分達がなんとも矮小で、弱い存在なのかと思い直せる。そんな想いで見に行くのではないだろうか。
信仰心故に祈りを捧げに行く者も、そうでは無い者も、あの巨大な神の姿を見れば誰でも畏怖を覚えるはずだ。
大いなる力の前で、自らの抱えるつまらない憂いを捨て去ろうと考える者は少なく無い、以前居た世界でもそれは同じだ。不安や苦しみから逃れる術を、人はいつでも探しているものである。
しばらくすると先ほどの神官が戻って来た。慌てた様子で迎賓館に案内しますと言う。
「なに? 迎賓館……? 巫女に会わせるのではないのか」
「はい、火の神の巫女が迎賓館の客間でお待ち頂くようにと仰ったのです」
……神殿の事は良く分からない、迎賓館以外は民間人が立ち入れない場所という事だろうか。
「……了解した」
俺は若い神官の後に付いて行き、迎賓館へ向かった。




