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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第一章 錬金鍛冶の旅団

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満員御礼という地獄

 知っている人は知っている、知らない人はずっと知らない。これなーんだ。


 それは「大忙おおいそがし」を越えた忙しさである。

 特に孤立無援の状態で、全ての作業をたった一人でこなさなければならない。そんな状態の事である──


 誰か、助けてくれませんか?


 何故、この様な事になったのか、それは分からない。ただやたらと「ここの強化錬成が凄い!」とか「やだ。私の利用してた鍛冶屋、強化率低すぎ⁉」みたいな事を聞いたりして、ここにお願いしてみたい。と客が押し寄せたのだ。

 ありがたい話だが、いくらなんでも一日に三十人分の錬成は(できないとは言わないが)無茶だろう。もちろん「三日後までに」とか受け取り日数の違いを設ける事で、対応したのだが──

「やばいよ、やばいよ。このままじゃまた、倒れちゃうよ」


 しかも中には上級の冒険者が訪れて。

「失敗しても構わない。この槍に『竜殺し』と『剛貫通』『破壊力増加』を付けて欲しい」

 と素材と前金を置き、狭い鍛冶場の中で「おおっ」というざわめきが起こったのだ。


 彼が要求したのものは、高位錬成と同難易度の依頼だ。他の店でももちろん断りはしないだろうが、五割以上の確率で槍が失われる危険がある。


「硬化と劣化防止の上に、それらを乗せるとなると──おそらく三割の成功率しか出せないと思うが、その時は『白竜角の槍』が失われる事になるが……それでもやれと?」

 冒険者は重々しく頷きながら、「これは予備のものだからな、噂を聞いて賭けてみたくなっただけだ。無くなっても恨まんよ」と、その冒険者は言っていたが……武器屋で売れば、一財産になる槍が失われるかもしれないこの恐怖……!

 この緊張感スリルたのしめなければ、錬金鍛冶師は務まらない。俺は表面上はいつもと変わらぬ様子を装って、「分かった、引き受けよう」と応えたのである。


「あ──、この依頼やっばいよ──! 集中して掛からんと……! いや、待て。まだ慌てるような時間じゃない……!」

 俺はその夜、寝室の寝台ベッドの上で、そんな一人芝居を打ってから眠りに就いた──


 何故かレーチェが夢に出てきたのは、彼女のエロい姿を目に焼き付け過ぎたせいかもしれない。

 いかん! 雑念を払わねば……!


 翌朝になると表に出て、空に浮かぶ火の神の焔日ほむらび(火の神が作り出している太陽の代わりとなるもの)の暖かさに包まれながら祈る──錬金術には神の前にこうべを垂れ、謙虚な気持ちで取り組まねばならないのだ。

 ここフォロスハートにはありがたい事に、目に見える神と力が溢れているのだ。信仰心に目覚めずして何が人であろうか。


 ああ、しかし神よ……私は未だ若い娘に欲望を燃やし、いやらしい気持ちになってしまうのです……人間だし、多少はね?


 などと口には出さずに懺悔(?)し、早速作業に取り掛かる事にした。まずは簡単な、今日の午前までに片付けるべき物をさっさと済ますと、問題の白竜角の槍と、それに組み合わせる素材を錬成台の上に並べる──これをさらに成功させる配列や、付け足すべき素材について思考する。


 霊晶石は、複合属性の調和に使うと安定するが、「白竜の逆鱗」と「鋭角なる巨獣の棘」等を組み合わせるとなると──竜の角と逆鱗の対立を調和させる為には──血だ。

 竜血晶だ、間違いない。


 しかし素材保管庫にあるのは、黒竜の竜血晶と、青竜の竜血晶のみだ。俺は鍛冶屋を閉めると近所の素材屋へ駆け込む──が、無い。

 白竜の素材はやはり、そうそう置いてはいないか……あの槍を持って来た冒険者なら、あるいは白竜の竜血晶を持っているかもしれないと考え、鍛冶屋へ戻り、あの冒険者の所属旅団を確認し、その旅団の拠点へ向かう。

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