象徴武具の完成と猫の祝福
大剣を水の中に入れて冷やすと、俺は庭の芝生の上に倒れ込んだ。精も根も尽き果てた。腕の感覚が無くなってしまったみたいだ、芝生のちくちくとした感覚が無いのだ。
見上げた空が橙色と、青色や薄紫色などに滲んでいる。そんなに時間が経ってしまったのか。
木箱を見ると神貴鉄鋼の延べ棒がかなり減っていた。……そうだ、二度目も失敗して、三本目を造っていたのだ。どうやら今回は三度目の正直で象徴武具の作製に成功したらしい。
芝生の上に大の字になっていると、少し眠ってしまったようだ。
ぐったりと力なく日が沈んだ空を見上げていると、俺の頬をざらざらした
物がくすぐってくる。
「ニャァ──」と、力無い声で猫が鳴き声を上げて、俺の頬を舐めていた。
象徴武具の完成を祝福しに来てくれたのかと猫の頭を撫でてやる、すると猫は「ニィャぁぁ──」と嫌がっているみたいな鳴き声を上げると、俺の体の横をうろうろと歩き出してからズボンに噛みついて引っ張ろうとする。
「なんだなんだ、餌か、ちょっと待って──」
そう言いながら上半身を起こして猫を撫でる。──あれ? こいつ、こんなに小さかったっけ? 夜の暗闇の中にぼんやりと見える白い猫は、一回り縮んでしまったみたいに見えたのだ。
「あ! まさか……!」
俺は立ち上がると猫を放って倉庫の方に向かって歩き出した。そんな俺の横を猫は駆け足で付いて来て、にゃぁにゃぁと鳴いて何かを訴えている。
倉庫の中に入って、壁に掛けられた発光結晶を手にして明かりを点ける。
倉庫の奥からは小さな鳴き声が聞こえてくる。
「にぃ、にぃ」と鳴く声が重なって、どんな生き物が鳴いているのか、声からだけでは判別できないのでは無いかと思われた。
俺の横を付いて来る白猫はなんだか一気にやつれた様だった。不安そうに、こちらに顔を向けて何度も「にゃぁ、にゃぁ」と呼び掛けている。
木箱の中を覗くと、三匹の子猫がちまちまと動きながら、何かを探し求めるみたいに鳴き声を上げて動き回っている。
目も開かず、毛も生え揃っていない小さな猫達は少し濡れていた。
俺はすぐに宿舎の方へ向かうと手を洗い、猫用の皿に温くした牛乳を入れて、母猫となった白猫の前にその皿を置く。
猫がペロペロと牛乳を飲み始めたのを見て、真新しい綿織物を手に倉庫の中に入る。
巣箱の中を見ると子猫達が震えている。──箱の中にあった綿織物で優しく体を拭いてやりながら、臍の緒が付いている子猫のそれを鋏で切ってやる。あまり根本を切って傷つけるのも怖いので慎重に鋏を使う。
三匹の体を拭いてやると、新しい綿織物を入れて、下に敷く布も新しい物に変えてやった。その間もずっと「にぃにぃ、みぃみぃ」と鳴き声を上げている子猫達。
毛の色は白系統が多いと感じたが、中には青白い様な色の毛も混じっている。──雄猫の毛色だろうか? まあそれよりも、今は親猫の餌を用意してやろう。
俺は調理場に戻ると鶏ささみを混ぜた粥と、煮干しを砕いて加えた粥を作って持って行った。
倉庫の前で牛乳を飲んでいる猫の横に、その二つの皿を置いて、煮干し粥の方には形のままの煮干しも置いてやる。出産したばかりで食欲も無いかと思ったが、粥の多くを食べてしまった。
白猫に餌を食わせている間に俺は、造り上げた大剣の仕上げに入る、表面を磨いて刃を研ぎ、刀身の根本の部分に刻まれた火の紋様部分を磨いて、粗い部分を削り取る。
鍔に柄などは明日作る事にし、その日は簡単な夕飯を作って食べ、一人でお風呂に浸かってから眠る前にもう一度倉庫を覗いて猫の様子を窺った。
白猫は子猫達抱いて巣箱の中で横になっていた。猫はこちらを見上げると「ニィヤァ──」と鳴いて目を閉じる。疲れたのだろう、子猫達も今は母親のお腹に寄り添って寝息を立てている。
母親の呼吸に合わせて膨らむお腹を揺り籠の様に感じているのだろうか、俺は彼女らにお休みを言うと倉庫を後にした。




