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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第五章 混沌の海と神々の大地

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火の神への象徴武具作製

再びオーディスワイア視点に戻ってきました。

 宿舎に戻った俺は、まず倉庫の中に入って猫の様子を見てみた。()()は起きていて、箱の中で綿織物タオルに寄り掛かっている。

 俺が見ている事に気づいても鳴き声を上げずに、それどころか「なに見てんだよ」とでも言い出しそうな雰囲気を漂わせている……そんな風に感じる。


 便所を見ると、ふんが埋められていたので、それを小さなスコップですくい、庭のすみに埋めておく。


 昼食を食べたりしていると、火の神殿から使いがやって来た。火の神から渡すように言われたと言って、若い神殿付きの神官は、火の神殿の紋章が入った馬車の荷台から、二つの木箱を運んで来て宿舎の前に置くと、それとは別に小さな書簡しょかんを手渡し、頭を下げて去って行った。

 木箱の中身は神貴鉄鋼シルエヴァルリスだろう。それよりも書簡だが……意を決すると、それを開封する。


『我が愛し子よ、元気にしているか? 単刀直入に本題に入ろう。今月の終わりに「送夏の儀」をり行うので、そこでお前の造る象徴武具──今度の儀式には大剣が望ましい──を使わせてもらおうと思うのじゃ。この様なほまれある大役を授かり、よもや断るまいな? うむ、()()()()()()()

 神貴鉄鋼と、火を表す象徴的模様を描いた刺繍ししゅう細工を送る。これらを使って素晴らしき一品を造ってくれるものと期待している──


                   お前の愛する者 ミーナヴァルズより』


 なんとまあ……あの女神らしいというか、()()()()()()()()()ですな。

 アリエイラの手紙と比較したい内容だ。特に最後の、名前の上に接続された一文……これだけで、この二つの女神の本質的な違いが明確に表されている気がしてならない。


 それはともかくとして、この仕事の依頼には応えなくてはなるまい。木箱の中身を確認すると、一つは神貴鉄鋼と魔力結晶が納められ、もう一つには神貴鉄鋼と精霊結晶が納められていた。

 どちらにも延べ棒が敷き詰められた上に朱色の布が掛けられて、その布に火を表す様々な象徴や模様が描かれていた。


 俺は庭の炉の前に道具や素材をそろえると、じっくりと、どのような物を作製するか考えた。大剣だけに、大量の神貴鉄鋼を使う事になるが、それを振るうのは戦士では無い、神官や女神のはずだ。

 そこで神貴鉄鋼を使う量を減らしつつ、大剣の形も成す剣の作り方を考えた。──魔力回路を精製する難易度は格段に上がってしまうが、火の象徴的な表現を剣自体でも表せるので、象徴効果はさらに期待できる物が造れるだろう。


 金属を溶かし、水なども用意すると金床の前に座り、精神を集中する。あの火の神を思い浮かべるのに焔日ほむらびを見上げる──そうだ、あの様な髪の色をしていた。

 美しく、なまめかしい女性だ。……おっと、雑念が入っては良くない。大剣の作製に集中しよう。


 今回造るのは、剣の刃先を真ん中の刀身から何本も外側に生やした様な形にするものだ。

 揺らめく炎から火の舌が伸びる心象イメージで、左右に三つずつ炎の噴き上がる様子を形作り、その刃にも、もちろん魔力回路を生成して作り上げる。

 難易度は今までは造ってきた魔法の剣の中でも断トツに難しい。


 炎の中に火の精霊石を投入して神への祈りを捧げる。──熱い炉の前に座って赤熱する金属の塊を打ち叩き、何度も折り畳んで火花を散らし、飛び散る火花が少なくなるまで、それを続ける。

 そうしてやっと剣の形に成形しながら、それを打ち伸ばして行く。──ここまでは、普通の鍛冶作業と変わりは無い。


 火の中に魔力鉱石を入れ、剣に魔力結晶を加える段になると緊張する、ここでの失敗は金属が消滅する危険があるのだ。灰となって崩れ落ちれば、今までつちで打ち伸ばした労力が無駄になる。

 しかも今回は魔力回路を持った剣先を全部で七つ作る予定だ、我ながら無茶をするものだ。


 順調に外側に伸びる炎を表象する剣先を作り続けていたが、四本目で引っ掛かった。炎の揺らめく形を作ろうとして、剣の向きを変えて打とうとした時に、先に造っていた剣先の部分が金床に引っ掛かってしまい、そこで打ち損じたのだ。

 魔力回路がじ曲がり、根本から送られてきた魔力が逆流を始め、大剣は崩壊し崩れ去ったのである。


 *****


 二度目はその点にも注意し、それでいてなるべく早く、根本に取り付けられた魔力結晶からの魔力の流れが断ち切れる前に、この難物なんぶつを仕上げなければならない。

 自分で設計を決めたとは言え、これほどの困難な形状の物に魔力回路を植え込むなど、他の者には真似の出来ない芸当だろう。


 だからこそ、この大剣を火の女神に捧げたいのだ。そうでなくて誰が、この困難な作業に打ち込めると言うのか。


 俺はこの時、炉を前に刀を打ち続けるという鬼の話を頭の片隅かたすみに思い浮かべていた。そうだ、俺は鍛冶師では無い──もはや鬼なのだ。

 この金属の塊に命を吹き込む、人ならざる者。

 鍛冶鬼だ。

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