神貴鉄鋼と神結晶の話
客間にナンティルを上げると、玄関の下駄箱に置いてあった小鉢植物園を目ざとく見つけた彼女は、この硝子小鉢は売れるが、中身の苔と石とかは良く分からないと答えた。
俺は「小さな庭」だと答えておいた。
「小さな庭? そう考えると面白そうにゃ──けど、買い手が付くかは分からないにゃ」
「いや、別に売る気は無いから」
そう応えつつ少し考えてみた。これをナンティルの故郷であるパールラクーンに持って行ったら、どういう反応になるか気になったのだ。
「一つやるから、パールラクーンの住人に受け入れられるか調べてきてくれよ」
「そうにゃ? なら、うちの店に非売品として置いてみるにゃ。苔と石に反応する奴は居ないと思うがにゃ……」
そんな風に小馬鹿にした感じで肩を竦めた相手を見て、俺はかちんときた。
「確かにな、金にしか興味の無い連中は自然に対する感謝や、畏敬の念を忘れがちだからな」
するとナンティルはむっとした表情になる。
「私達はちゃんと自然に感謝してるにゃ。神様の事だって愛してるにゃ、そんな風に言われるのは心外にゃ」
彼女はそう言って、荷物から木箱を取り出し、硝子の小鉢を布で包んで箱にしまう。
その箱から取り出した布袋には宝石が入っているらしい。
「お、ちょうどいい。宝石が入り用になりそうなんだ、どんな物がある?」
「宝石にゃ? 珍しいにゃ、オーディスが宝石を使うだにゃんて……」
彼女はそう言いながら布袋の紐を解いて布を広げて見せる。袋の中には荒く削った様々な色の宝石が入っていた。
「水晶、金剛石、青玉、翠玉、紅玉、柘榴石、黄玉、猫目石、縞瑪瑙……後は何だったか──」
俺が必要な宝石の名前を列挙していると、ナンティルは鞄から別の皮袋を取り出した。
「こっちのなら原石だからお安くしとくにゃ、必要な物を出してくれにゃ」
面倒臭くなったのか、彼女はそう言いながら小さな皮袋を三つ取り出す。
「にゃんで急に宝石が必要になったにゃ? 装飾品を作る気にゃのかにゃ」
「それもあるが、神貴鉄鋼の武具で使うんだ」
そこまで言ってはっとした、フォロスハート外の人間──獣人である彼女に「象徴武具」について話しても良いものかと思ったのだ。
敵対勢力にこういった情報を与える訳にはいかないからだ。……彼女ら猫獣人族は、フォロスハートと交易を結んではいるが、今後敵対関係にならないとも限らない──
いや、考え過ぎか。協力関係にある大地の住人と争うなど、おそらくはあり得ない。
「神貴鉄鋼って、神結晶を作った後に残る金属にゃ? 儀式で使うくらいしか意味が無いと聞いていたにゃ。それにそんな稀少金属、オーディスのトコには手に入れられないはずにゃ」
「妙に詳しいな」
すると彼女は踏ん反り返る。
「当然にゃ、お客の事はにゃんでも知ってるにゃ。神貴鉄鋼は魔力との相性は良いけれど、武器としては大して役には立たないらしいにゃ?」
大した情報網だと感心しながら、宝石とその原石を選び出す。──結構な量になってしまった。
「全部で二万七千七百ルキにゃ。けど、纏めて買ってくれるなら二万五千に負けとくにゃ」
俺が金を用意していると、彼女からこんな事を言われた。
「神貴鉄鋼の武具に使うって、オーディスが神殿から依頼を受けて武具を作るって事かにゃ? それは大した出世にゃ! 鍛冶屋も改築するみたいにゃし、それは宝石を大量購入しても懐は痛まにゃいにゃ!」
そう言えば、彼女らの神……アヴロラも転移門を作り出せるらしいが、神鉱石を見つける事がなかなか出来ないので、滅多に転移門を開けないようだ。
「その神貴鉄鋼を使って魔法の武具を加工すると、神の力を増幅させる武具が造れるんだ」
話しても大丈夫だろうと踏んで、俺は事実を語る事にした。
「ほ、ほんとかにゃ。それは大発見にゃ、魔法の武器? どうやるにゃそれ……」
「あ──、でも。ただ魔法の武器を作るんじゃなくて、神の属性などを考慮して作ったり、神への信仰心や……愛情を持った者じゃなければ、神の力を増幅させる物は造れないらしいぞ」
ええ? という風に俺の顔を見るナンティル。
「神への信仰心や愛情なんて持ってたかにゃ?」
「ばっか、俺はここの神様を愛しているに決まってる。さっきの硝子の小鉢を見ろ、自然を愛し、それを守る神への愛に溢れていたろ?」
そう言うと彼女は耳をぴくぴくと動かしながら上を見上げる。
「う──ん、よく分からんにゃ……」
と難しい顔をされてしまった……




