猫の体調と猫獣人
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団員が遠征に出てから五日が経過した。最近は朝起きると焔日を見上げて火の神へ祈りを捧げてから、ウンディードの方角を向いて水の神への祈り──というか、呼び掛けをするようになった。
水晶の腕輪は自室にある小さな木箱の中にしまっている。傷が付かない様に柔らかい布を箱の中に敷き詰めて。あれを見るとアリエイラに逢いたくなってしまう気がして、隠しているのだ。
それでも彼女の事をふと、思い出してしまう。
女神と離れてから四日しか経っていないのに、もう彼女に逢いたいと恋い焦がれている自分が居る。
俺は必死に、それは恋愛感情では無く、尊崇からくるものなのだと自分に言い聞かせる。そう思わなければ、心の奥底から溢れ出る思いが衝動となって、とんでもない行動に駆り出されてしまう──そんな気がしていた。
「ニャァァ~~」
庭で立ち尽くしていた俺の側に来ていた猫が鳴き声を上げる。なんだかいつもよりも弱々しい感じで餌を強請っている。しかも俺の足下にすり寄って来なくなった。
「餌は……魚の干物とご飯を混ぜたお粥みたいなのがいいか、なんか調子悪そうだしな」
そう声を掛けると猫は背中を向けて、宿舎の入り口付近の日の当たる石畳の上に転がって待機する。
調理場で猫粥を作って皿に盛り、少し温めた牛乳を入れた皿と一緒に持って行く。
猫はぴりついた感じを出していて、迂闊に触れない雰囲気だ。俺は食堂の方に戻って自分の朝食を食べた後、猫の皿を片しに行ったが、ご飯と牛乳が少し残されていた。
食欲が減退している……妊娠中の猫はこうなるものなのか? 俺には分からない。体の中に数匹分の重さがあれば大変だろうが、食事の量は子供の分の栄養を取る為に増えそうだが──
そうだ、管理局に報告に行った方がいいかもしれない。野良の子供が産まれたら、その子供も保護対象動物として登録する必要があるらしい。増え過ぎないように管理する必要もあるのだ。
結局、踏ん切りがつかず倉庫の中を覗いて、猫が寝床で眠っているのを確認しただけで済ませてしまった。
そんな時にナンティルがやって来た。宿舎の扉を開けて、ずかずかと敷地内に入って来る。彼女には「遠慮」という概念が無いのだ、きっと……
「やあやあ、お待たせして申し訳なかったにゃ」
そう言いながら、玄関口に引っ掛かりそうになる大きな背負い鞄を、何とか進入させて来た。
「いや、待ってね──よ」と言いそうになるのを、ぐっと堪えて「ちょうど良かった」と口にし、彼女の荷物を宿舎の壁際に置かせて、倉庫の奥に居る猫の様子を確かめてくれと言う。
「にゃ、にゃんにゃ、猫の様子って……いつから飼い始めたにゃ」
いいからいいから、と彼女の背中を押して倉庫に押し込む。
ナンティルはすぐに出て来た。
「箱の中で眠ってるにゃ」
「それは知ってる」
しばしの間が空いた……
「いったい、にゃんにゃんにゃ!」
「それはこっちの台詞だわ!」
仕方なしに、猫が身重であるかどうかを見てくれるようにと言ってから、もう一度、様子を見に行ってもらう。
「う──ん、たぶんだけどあと数日で産まれるんにゃにゃいかにゃ?」
「確かか」
「たぶんって言ったにゃ。けれど身重なのは間違い無いにゃ、お腹、あれだけ大きくなってたにゃ? それで結構苦しいから食事の量も減るんじゃにゃいか?」
「孕んだ事が無いから分からん」
「そんにゃの私だって無いにゃ!」
ナンティルはそう言って何故か怒り出す。
「けど大丈夫にゃ、勝手に産まれて勝手に増えるもんにゃ」
子猫をぼうふらみたいに言うナンティル。
「さあさ、野良猫の事は事は本人に任せて、買い物を済ませるといいにゃ。今回も色々な品をご用意したにゃ」
彼女はそう言って背負い鞄を叩いた──




