徒弟志願②
翌日の正午過ぎの事だ、宿舎に少女がやって来た。鍛冶屋の弟子を募集していると聞いてやって来ましたと少女は語った。客間で緊張気味に喋る少女に、紅茶と蜂蜜を使った焼き菓子を出して話しを聞くと、少女は「サリエ」だと名乗った。
都市ウンディードに続く道の途中にある、エンフィーナの街の管理局掲示板を見て、すぐにここだと感じたらしい。
「わたしはエンフィーナにある小さな工房で働いていました。装飾品などの小さな工芸品や銀製品の食器や杯を造る作業をしていたので、細かな作業は得意です」
ほほう、装飾を施す作業をしていたのかと言うと、少女は持って来ていた鞄から小さな銀の杯取り出して見せる。
「これは私が造った物です、見てください」
それは細かな装飾が持ち手の部分から、杯の表面まで描かれていた。山から森を抜けて流れて来る小川を描いた装飾だ、相当な技術を持った者でないと、ここまで精緻な模様は彫り込めないだろう。
「なるほど、細かな意匠を得意としているのか──しかし、うちは主に武器や防具を造る鍛冶屋だからな。……装飾品も作るが、冒険用の物であって装飾はそれほど……」
すると少女はすかさず反論する。
「もちろん冒険者の多くが、意匠よりも機能性を重視するのは知っています。しかし、昇華錬成を起こすような錬成には装飾が必要になると考えます」
この子も昇華錬成か! 昨日の少年とグルなのかと思えてきた……そんな訳は無いのだが。
「そ、そうかなぁ……有名な『エンデルの剣』はごく普通の剣と変わらないと思うけど」
「いえいえ、それは例外的な物だと私は思います。その他の昇華錬成を起こした品の多くは、少なからず装飾の施された物が多いです。オーディスワイアさんが昇華錬成を起こした物も装飾があったんじゃありませんか?」
確かに、ユナの腕輪が昇華錬成を起こした時に装飾品の花の模様が、銀から各属性を表す宝石に変化したのだ。──その事を話すと彼女は「ほら!」と声を上げる。
装飾が錬成効果を高めるかどうかは検証の余地がありそうだが。……サリエは武器や防具を造る事に興味があるのか、と尋ねると彼女は「もちろんです」と答える。
「わたし、金銀細工を得意にしていますが、その前は刃物鍛冶で相槌を打つ役目もやっていたのです。腕力にも自信がありますよ」
そう言ってやっと菓子や紅茶に手を出して「これはとても美味しいです!」と感想を述べる。
俺は彼女にも仮契約書を手渡して、鍛冶屋が改築される数日前には連絡を入れる事を約束した。
彼女は、それまで現在働いている工房で装飾の腕を磨いておくと宣言して帰って行った。──なかなか快活な少女である。




