おめでたですか?
翌朝は寝過ごしてしまった。たった一人で、遠征に出ている旅団員から送ってこられた荷物を、素材置場や倉庫に入れたりしていたのだ。疲れるに決まっている。しかもシャルファーに行っているのは十二人全員だ、送られてきた入手素材は二日分だけで結構な量になった。
毛皮などは獣臭さを取り除く為に手で揉み洗いし、錬成品を使って防腐処理をしなければならないが──その前に、天日干ししなくてはならなかったのである。
「猟師。猟師だこれ」
そんな独り言を零しながら、送られてきた荷物を整理する作業に追われ、夜には森竜の尻尾を、肉と鱗などに分けるなどの処理をしなければならなかったのだ。
昼食と朝食を一緒に取る事になりそうだな、と考えながら廊下に出ると、どこからかカリカリと音が聞こえて来る。
「うにぃゃぁああぁぁ~~」
と恨めしそうな猫の声がして、ガリガリとドアを引っ掻く音が聞こえてきた。
「ぁああ、分かったから、ドアを引っ掻くのは止めろ。今開けるから」
玄関に行ってドアを開けると「ンニャァアァ──」と頭を上げて俺に文句を言うみたいに鳴き声を上げる。
「俺も疲れてるんだ、餌はもう少し待ちなさい」
そう言いながら霧吹きで下駄箱の上にある小鉢植物園に水をやる。
「ニャァ──ォ」
俺の脚に身体を擦り付けながら鳴き声を上げて、ごろごろと喉を鳴らす。この猫という生き物は餌を貰う時だけは愛想良く、人懐っこく振る舞う。
「はいはい、餌はもうちょっと待ってくれ」
猫に玄関で待つよう手を顔の前に翳してから食堂へ向かったが、猫は俺の後を付いて来て──食堂にまで入って来た。
「あ、こら」
俺が声を掛けると「ニャァ──」と悪びれた様子も無く、甘えた鳴き声を上げる。
俺は彼女を無視して鶏ささみを茹で、冷蔵していた米を軽く温めて、そこにささみを細かくした物を混ぜ込んで、それを皿に盛って床の上に置く。
猫はすぐに顔を寄せて匂いを嗅ぐと、がっつき始める。
相当腹が減っていたのだろう──だが、それは俺も同じだ。
そう思いながら猫を見ていると、やけにお腹が膨らんでいるように見えた。
牛乳を入れた皿を床に置きながら猫のお腹を触ってみると、彼女は嫌がって俺の手を甘噛みする。「ンニィャァァ~~」と鳴き声を上げ、前足で手を退かそうとする。
どうやらお腹に子供が居ると考えて間違いないようだ。そうだとするといったい相手は誰なのだろう。──茶色の野良猫を見かけた事があったが、あの猫が雄かどうかも分からない。
まあそれよりも、本当に子供が生まれるのなら、この猫がどこで出産するつもりなのかが問題だ。簡易寝床に入らず、倉庫に入って行ったのは外敵から子供を守る為の本能だろうと考えられた。
「うちの旅団がそんなに気に入ったのかね……」
そんな感想を漏らしつつ、自分の餌──食事を用意する。
簡単な食事を用意してテーブル席に着く、一人寂しい食事だが、以前はこれが普通だったのだ。旅団を立ち上げてからというもの、仲間と共に食事を取るのが当たり前になっていた……不思議なものだ。この猫がここに住み着くとは思えないが、もしかすると家族が増えるのかもしれないな、そんな風に思う。
乾酪を乗せて焼いたパンを食べていると、足下で猫が身体を脚に擦り付けながら鳴き声を上げた。餌の追加を強請っている訳では無く、玄関のドアを開けろと訴えているらしかった。
「わ──った、待て待て、食事中だ」
俺はそう声を掛けて皿の上に乗った料理を食べる、猫はズボンを口で引っ張って、俺に立ち上がる様に催促してくる。
「ちょっ、待てよ! 飯くらい落ち着いて食わせてくれよ……」
俺は小さな彼女に急かされて玄関まで歩いて行くとドアを開けた。
猫は表に出ると開け放たれた倉庫の入り口から中に入って行った。どうやら、この宿舎の倉庫を住処──あるいは出産場所として選んだのは間違いなさそうだ。




