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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第四章 新たなる旅立ち

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倫理観と法規について

まるで永遠の別れの様に感じている二人、人と神(精霊)だからこその関係かも……

 目が覚めると、だいぶ疲れが取れたと感じる。元々ただ疲れたというのでは無く、心地良い疲労と満足感に満ちたものだったので、苦痛では無かった。


「あなたにも、色々な苦悩があったのですね」

 隣で寝そべるアリエイラが、こちらを見ながらそんな感想を口にした。存在せざる神についての吐露とろの事を言っているのだろう。彼女にはつまらない事を聞かせたと謝罪する。


「あなたの事なら、なんでも知っておきたいですよ。どんな事でも良いので話して下さい」

「そう言われても困りますね、関係した女性の事でも構いませんか?」

 彼女は急に顔を近づけたかと思うと、俺の腕に噛みついてきた。

「いたたたたっ⁉ うそうそ、嘘です。──そんなに多くは無いですよ。……たぶん」


 こちら(フォロスハート)には男女の特別な関係について厳格な決まりは無いらしい。節度を持ってとか、望まぬ相手と子を成してはならない、みたいな抽象的ちゅうしょうてきな訓戒が多いが。それよりも日々の務めの方に重きを置いた生活が求められる事が、乱れた性への欲求を少なくしているのかもしれない。

 こちらに来たばかりの頃は、割と多くの女性に声を掛けられた気がしないでも無いが──うん、たぶん気のせいだろう。


 こちらの倫理観は、管理局の定めるところの法規ほうきのっとっている訳だが、事細かに、これこれをするな、これこれをしろと書かれてはいない、かなり大雑把おおざっぱなものだったと記憶している。


 問題なのは、むしろ転移門と冒険者のありようと、それ以外の農耕者や労働者との格差を無くす事にあるのだ。

 旅団が優遇ゆうぐうを受けているのは明らかだが、それは多くの資材や食料を手に入れてきた(人数の多い)旅団に対してであり、多くの労働者に不満を持たれないように、管理局側も腐心しているのである。


「そういえば、こちらに来たばかりの頃に厄介になった市民の夫婦が居ましてね。そこの奥さんと()()()()になってしまったんですが、夫にバレなかったから大丈夫、という事だったのかな……」

 ぐりぐりとあばらに拳をえぐり込まれる。痛みをこらえながらも俺は言った。

「ほら、据え膳食わぬは男の恥……という言葉が、俺の居た世界にはありましたので──痛い痛い」

 水の神は拳を押しつける攻撃を止め、お風呂に入りましょうと小声で言う。


 そうだ、朝になる前に迎賓館げいひんかんに戻らないと、向こうの神官に奥神殿に泊まったとさとられてしまう。奥神殿に務める者達は、外部に情報を漏らす事などあり得ないとアリエイラは言っていたが。極力ここの世話係にも、女神とイイ関係になった事は秘密にしておきたい。


 名残惜しいが、水の神と離れなければならないのだ。いつでも訪ねて来て下さいと彼女は言うが、俺にも旅団団長としての肩書きと、錬金鍛冶師としての仕事がある。

 だがそうだな……。ウンディードに行く用事ができたら、彼女アリエイラに会いに行くようにしよう。そうそう会いに来る事はできないが、女神の顔を見に来るだけでもいい。


 一緒に風呂に入りながら、新しい給湯設備作ったのは自分であり、管理局に登録した物が奥神殿の浴場にも使われているのだと説明する。

 浴場は一人で入るには広く、贅沢ぜいたくな造りになっていた。湯船も大きく、建物の壁と同じく結晶質の岩石の中に蒼い輝石がまだら模様もようをを為している。

 磨き上げられたつややかな石の湯船に二人で入り、向かい合ってミスランでの事や、旅団の事を話した。


 浴場から出ると体が乾くまで奥神殿に留まった。もう真夜中だ。俺と女神は別れを惜しんで椅子に腰掛け、なおも色々と話し、ミスランに戻っても元気で居るようにと彼女は俺に口づけをする。

 奥神殿の玄関で俺と彼女は、別れの口づけを──最初に思っていたのとは違う、情熱的な接吻せっぷんを交わし、未練を感じながらも別れる事になった。


「また会いましょう」

 アリエイラは奥神殿の玄関かられる光を背に、夜の暗がりの中で手を振り続けていた。奥神殿から木々の間を通り抜ける通路に来ると真っ暗で何も見えなくなる。ふところに入れた発光結晶を手にして明かりを点けると、涼しい夜道を歩いて迎賓館の裏口まで戻ってきた。


 裏口を開けて中へ入り、すぐ側の部屋に入ると寝台ベッドに腰掛ける。

 一人になる寂しさに胸が締めつけられる。──自分は孤独に慣れ親しんできたはずなのに、誰かと離れる事がこんなにも辛く苦しいと感じるなんて。


 そこへ、ドアを叩く音が。

 まさかと思い、立ち上がる。

 入り口のドアへ近づくと、独りでにドアが開き、その向こうにアリエイラが立っていた。


 彼女は無言で部屋の中へ入って来ると俺に抱きつく。


 二人は互いを抱き締めたまま、愛欲の命じるままに互いの唇を重ねて──もう一度、忘れられない思い出を作る様に、互いの体を重ね合った。

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