神々の黄昏れ(嫉妬編)
「オーディスワイアアァァアァッ!」
ミーナヴァルズは真紅の髪を燃え上がらせながら俺の名を呼ぶ。
「我というものがありながら、アリエイラと浮気じゃとぉぉ⁉ そんな男女と何をしていたのじゃ! この浮薄者めぇぇっ!」
めらめらと嫉妬の炎を身に纏い、女神ミーナヴァルズは文字通り、嫉妬に身を焦がしていた。
「だッ、誰が男女ですか! あなたこそ、いきなり私の精神世界に入り込んでオーディスワイアに詰め寄るなど、見苦しい真似はお止めなさい! 火の神ミーナヴァルズ!」
アリエイラはそう言いながら、軟らかい胸を押しつける様に俺の腕を抱く。
こうして女神達の熾烈な戦いの幕が切って落とされたのであった──
……などと言ってる場合じゃなぁぁい! 精神世界での事とはいえ、神々同士でいがみ合ってどうする、そんな言葉でどうにかなる状況でも無いだろう。
考えろ、考えるんだ──と思ったが。人間の俺に何が出来るのだとすっぱり諦めた。それに浮気現場を押さえられた間男でもあるまいし、何故、俺が弁明しなければならないんだ。
などと心の中で強がってみせる。……あくまで心の中ではだ。
「まぁまぁ、君達。少し落ち着いたらどうなんだい。仮にも神を自称する者が人間のする事に一々、目くじらを立てるもんじゃない」
近くにある木が喋り出した──いや、木に止まっていた鳥が喋り出したようだ。
「貴様は黙っているがよい、ラホルス」
ミーナヴァルズが言うと、緑色の鳥はバサバサと音を立てて枝から飛び降り、俺の頭の上に着地する。
梟に似た、その猛禽類の鋭い爪が頭部にめり込んで痛い、そう訴えると風の神は「これは失敬」と言って地面に降り立った。
「大体、オーディスワイアは君のものでも無いだろう。所有権を訴える様な真似を神がしたら、フォロスハートに住む者達は、誰に付くかで争い合う羽目になるかもしれないねぇ」
無言で睨み合う美女と梟。
そこへ銀色の鼠がやって来た。
「ハッハハハァ! 何やら面白そうな事をやっているかと思えば、オーディスワイアだったか! さすが俺が見込んだだけはある。ミーナヴァルズもそう思うだろう? この男には、我等を引き付ける何かがあるとな」
いつの間にか神様が全員集合なさった訳だ。ミーナヴァルズは、すっかり悋気を萎ませて大人しくなっている。
「浮気と言うが、オーディスワイアは言わば我々、全員のものだ。誰か特定のものになるとするならば、それは彼自身の自由意志によって為される事であり、我々が口を出すべきでは無い」
ラホルスはそう言うと地面を蹴り、大きな翼を羽ばたかせて飛び去った。
「うむうむ、ラホルスの言う通りだろう。しかしオーディスワイアは我々を等しく愛しているものと思っているし、そう期待してもいる。まあオーディスワイアが植物や、鉱物を用いた小さな庭園作りを趣味としている事からも分かるように、この男は地の神を敬愛しているに違いないがな」
ウル=オギトは笑い声を残しながら、地面に溶け込むみたいに消え去った。
そして今は、湖畔の草地に座りながら、両腕を二人の女神の腕に抱かれる形で隣り合って座っている。睨み合う二人の女神に挟まれながら──
「あのぉ……もう機嫌は直りました?」
俺が火の神に問うと、彼女はふんっ、とそっぽを向く。
これは困ったとアリエイラを見ると、不満そうな顔をして腕に強く抱きつく。彼女の軟らかい感触を感じるが、ここでは愛欲が必要以上に大きく膨らむ事は無いようだ。精神世界なので肉体的なものとの結び付きが弱いのだろう。
「……それで、お前はもうアリエイラに情が移り、我の事はもう捨て置くと言うのか。オーディスワイアよ」
ミーナヴァルズはそう言いながら腕を抱き、豊かな胸の間に挟み込む。その紅い瞳は上目遣いでこちらを見ている。
「いや、そんな事は……俺は、どちらの女神も愛していますから」
と率直に言った。これが人間の女相手なら大惨事になる発言だが、彼女らは神なのだ。
火の女神は「ふん」と言いながらも、悪い気はしていない様子で俺の腕にしがみついてくる。
「まあ良いじゃろう、お前も男じゃからな。たまには貧相な体の女も抱きたくなるのじゃろう。よいよい」
貧相な体と言われ、何か反論しようとしたアリエイラの太股を撫でてやり、気持ちを逸らす。
「オーディスワイアよ、我も其方の造る神貴鉄鋼製の武器を愉しみにしていよう。ただし、我の所に直接持ってくるのじゃぞ? 我から直接礼を渡してやりたいからの」
それではまたな、という言葉を残して、火の女神も去って行った。




