夢の中の世界
腹上死って俗語だったのか……
食事を食べた後、俺は身支度を整えてからアリエイラと共に寝室へ入り。夜の影響を受けてすっかりと女性らしい体つきになった彼女と、愉しい一時を過ごした──
女神は終始恥ずかしそうにしていたが、愛欲の虜となった俺には、彼女のあらゆる仕草や声が、楽園へと通じる光の溢れた道の様に感じていた。柔らかい彼女の肢体を自由にできる喜びに、いつしか相手が水を司る女神だという事も忘れて(彼女も神と人間という垣根など無いものと感じていただろう)、俺達は無我夢中で愛し合った。
さすがに長い間、小柄な身体を蹂躙するかの如く扱ってしまった事に気づき、俺はアリエイラに謝罪した──が、彼女は黙って弱々しい微笑みを向けると、俺の身体を抱き寄せて口づけをする。
情熱的な彼女の口づけを受けた俺は、またしても胸の奥の情念を燃やし。女神の温もりを求めて深く深く、彼女の体温、彼女の愛を、とこまでも求め続けたのである。
激しい愛の営みを終わりに導いたのは、俺の体力に限界が訪れたせいだ。本当はもっと続けたいと心が望んでも、身体がついて来れない。
女神もふらふらになるほど長い間、俺の激しい愛の求めを受け止め続けていた為に、これ以上は無理だと瞳──今は水色では無く、藍色の瞳になっていた──を潤ませながら言う。
そんな表情と声をされると、また心が彼女を求め始めるが、最悪腹上死を起こし兼ねないほど早鐘を打つ心臓の鼓動に恐れを感じ、ここは理性を総動員して愛欲に引き下がって頂く。
「アリエイラは大丈夫ですか?」
俺の言葉に彼女は頷いて「はい」と答える。
優しい微笑みを浮かべる彼女をそっと抱き寄せると、安堵から睡魔が襲ってきてすぐに眠りに落ちてしまった。
*****
そこは美しい自然に囲まれていた。大きな湖の畔に居て、隣にはアリエイラが手を繋いで横になっている。緩やかな傾斜のある草地に寝そべって、眩しい日の光を浴びているのだ──それは、火の神が作り出す焔日では無く、太陽であるらしい。
橙色に輝く日の光が燦々と降り注ぐ中、女神と手を繋いで横たわっている。
「アリエイラ、ここは……?」
「私の心象風景……過去の世界の情景。世界が壊れ、混沌に覆われる前の世界です」
夢なんですか? そう問うと彼女は頷く。
「お話をしたかったので、こういう方法を取りました。あなたの身体も心配だったので……」
なるほど。今、俺の体は睡眠中であり、体力を回復している訳だ。
「ここでの記憶は起きても、ちゃんと残るので、時間の流れもゆっくりとしたものですから、色々な事についてお話しをしましょう」
そう言って俺の手に彼女の手が被さると、指を絡める形で手を繋ぐ。
話しをしようと言ったものの、心地良い空気と日差しを浴びながら二人はしばらくの間、空を見上げたまま、青空をゆっくりと流れて行く白い雲をただ眺めていた。
二人とも服を身に着けているが裸足で、それがとても開放的な気持ちにさせてくれた。アリエイラと手を繋ぎ、失われた世界の記憶に留まってのんびりとする……それだけで充分な気もしてくる。
しかし俺も彼女も、そして俺の仲間達も、やらなければならない事がある。それをはっきりと胸の内に感じている。この甘い世界に留まって幸福感に溺れていたいが、それは許されない。
アリエイラが強く俺の手を握る、彼女の為にも混沌の中で生きて行く術を見つけなければならない。──それが俺の、錬金術の、果たすべき使命なのだと言い聞かせる。




