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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第一章 錬金鍛冶の旅団

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聖銀鉄鋼への効果付与錬成

あれ、少し固い内容と展開になってきた……というか、これおっさんとお嬢様のラブコメだったっけ……

ああ、意識が──もう少し謎展開が続くようです……

 まずは盾に劣化防止と硬化を同時に付ける。この二つは比較的相性の良い組み合わせだが、油断は出来ない(油断で片脚を失った俺が言うのもなんなんだが)。


『火をべよ、塵も灰も我等の欠片かけらかつては命だったもの。土塊つちくれが時の中で石と成る、生成するものよ、あなたのかいなに今、終末を預けん』


 不銹ふしゅう結晶が砕け散り、細かな粒子となって盾に降り注いだが、硬化結晶は砕け落ちて炭化してしまった。

「あらら、この場合を決めてなかったな。うっかりしていたよ」

 俺は内心動揺した。成功すると疑わずにやるのが基本だが、片方だけ成功する事を失念していたとは。


「疲れてるのかな……」

「良く分からなかったのですが、半分は失敗したと、そういう事ですの?」

 レーチェの言葉に「劣化防止だけは付いた」と応えると、彼女は気前良く「ならいいでしょう、満額支払いますわ」と言ってくれた。


 その言葉で余裕が出来たせいか、聖銀鉄鋼エルファリクスの剣は二つの効果が付与されて、俺は心の中でぐっと拳を握る。

「良かった、今度は成功だ」

「そう、あなたは本当に優れた錬金鍛冶師だった様ですわね。わたくし、今までの非礼をお詫びしますわ」

 彼女はそう言いながら優雅に一礼して見せた、俺はよしてくれと言って、剣と盾を侍女に持たせようとして──そのまま横向きに倒れ込んでしまった。


 ぐらりと足下が崩れる様な感覚、身体に力が入らなくなり、手にしていた剣と盾が異様な重さに感じる。

 さっと誰かが俺の身体を支え、俺の持っていた剣と盾も、床に落とす事無く回収する。


 それは侍女だった。優美な物腰で俺を抱き止めて、流れる様な動きで壁際にある、ぼろい長椅子に俺の身体を横たえると、他の侍女に指示を出して剣と盾を運ばせて行く。

「いったいどうしたというのです!?」

 そんな慌てたレーチェの声が遠くから聞こえてきて──そのまま意識が途切れてしまった……


 身体が重く感じる……昇華錬成をしたすぐ後の様な感覚が、より酷くなったみたいだ、頭の奥が何やらぼうっとしてきて、まるで頭の先から意識が抜け出てしまいそうだ。

 そうか、精神力の使い過ぎで、身体と魂の均衡が崩れてしまったのだ。なんて事だ、こんなになるまで気づかなかったなんて、錬金鍛冶を始めて間もない時以来だぞ──


「ばか、ものめ──」

 俺はそう呟きながら、何とか意識を回復させる事に成功した。危険な状態だった、あのまま昏睡状態になって死んでしまう事もあるのだ。

 何か柔らかい物に頭を乗せている感覚があるが、目が霞んで何も見えない……


「目を覚ましたようですわね」

 すぐ近くから女の声がする。

 段々と視界が定まってくると、目の前に心配そうに俺の顔を覗き込む──美人が居る事に気づいた。

「誰だい、この美人は……」


 ぼうっとする頭の中で記憶が曖昧になる──俺は……そうだ、効果付与錬成を行っていたのだった。そこで意識を失って……

 視界がはっきりすると、ぼんやりとしていた記憶もはっきりとしてきた、どうやら俺はレーチェの膝枕で眠っていたらしい。目の前には顔を赤くした彼女が居る。


「ぁ、あぁすまない……すぐ退く──」

 俺は上半身を起こそうとしたが、レーチェが手を俺の胸に置いてそれを止めた。

「いいんですのよ、無理しなくても。こんなになるまで錬成していただなんて、気づきませんでしたわ」


 彼女は先程よりもしおらしくなり、俺の事を気遣きづかう素振りを見せてくれる。こうしていると、彼女は実にいい女なんだと改めて思う。

 目を閉じると後頭部に彼女の温もりを感じて、再び意識が薄暗いとばりの中に溶け込むみたいに、静かにゆっくりと──闇に包まれていった……

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