聖銀鉄鋼への効果付与錬成
あれ、少し固い内容と展開になってきた……というか、これおっさんとお嬢様のラブコメだったっけ……
ああ、意識が──もう少し謎展開が続くようです……
まずは盾に劣化防止と硬化を同時に付ける。この二つは比較的相性の良い組み合わせだが、油断は出来ない(油断で片脚を失った俺が言うのもなんなんだが)。
『火を焼べよ、塵も灰も我等の欠片、嘗ては命だったもの。土塊が時の中で石と成る、生成するものよ、あなたの腕に今、終末を預けん』
不銹結晶が砕け散り、細かな粒子となって盾に降り注いだが、硬化結晶は砕け落ちて炭化してしまった。
「あらら、この場合を決めてなかったな。うっかりしていたよ」
俺は内心動揺した。成功すると疑わずにやるのが基本だが、片方だけ成功する事を失念していたとは。
「疲れてるのかな……」
「良く分からなかったのですが、半分は失敗したと、そういう事ですの?」
レーチェの言葉に「劣化防止だけは付いた」と応えると、彼女は気前良く「ならいいでしょう、満額支払いますわ」と言ってくれた。
その言葉で余裕が出来たせいか、聖銀鉄鋼の剣は二つの効果が付与されて、俺は心の中でぐっと拳を握る。
「良かった、今度は成功だ」
「そう、あなたは本当に優れた錬金鍛冶師だった様ですわね。私、今までの非礼をお詫びしますわ」
彼女はそう言いながら優雅に一礼して見せた、俺はよしてくれと言って、剣と盾を侍女に持たせようとして──そのまま横向きに倒れ込んでしまった。
ぐらりと足下が崩れる様な感覚、身体に力が入らなくなり、手にしていた剣と盾が異様な重さに感じる。
さっと誰かが俺の身体を支え、俺の持っていた剣と盾も、床に落とす事無く回収する。
それは侍女だった。優美な物腰で俺を抱き止めて、流れる様な動きで壁際にある、ぼろい長椅子に俺の身体を横たえると、他の侍女に指示を出して剣と盾を運ばせて行く。
「いったいどうしたというのです!?」
そんな慌てたレーチェの声が遠くから聞こえてきて──そのまま意識が途切れてしまった……
身体が重く感じる……昇華錬成をしたすぐ後の様な感覚が、より酷くなったみたいだ、頭の奥が何やらぼうっとしてきて、まるで頭の先から意識が抜け出てしまいそうだ。
そうか、精神力の使い過ぎで、身体と魂の均衡が崩れてしまったのだ。なんて事だ、こんなになるまで気づかなかったなんて、錬金鍛冶を始めて間もない時以来だぞ──
「ばか、ものめ──」
俺はそう呟きながら、何とか意識を回復させる事に成功した。危険な状態だった、あのまま昏睡状態になって死んでしまう事もあるのだ。
何か柔らかい物に頭を乗せている感覚があるが、目が霞んで何も見えない……
「目を覚ましたようですわね」
すぐ近くから女の声がする。
段々と視界が定まってくると、目の前に心配そうに俺の顔を覗き込む──美人が居る事に気づいた。
「誰だい、この美人は……」
ぼうっとする頭の中で記憶が曖昧になる──俺は……そうだ、効果付与錬成を行っていたのだった。そこで意識を失って……
視界がはっきりすると、ぼんやりとしていた記憶もはっきりとしてきた、どうやら俺はレーチェの膝枕で眠っていたらしい。目の前には顔を赤くした彼女が居る。
「ぁ、あぁすまない……すぐ退く──」
俺は上半身を起こそうとしたが、レーチェが手を俺の胸に置いてそれを止めた。
「いいんですのよ、無理しなくても。こんなになるまで錬成していただなんて、気づきませんでしたわ」
彼女は先程よりもしおらしくなり、俺の事を気遣う素振りを見せてくれる。こうしていると、彼女は実にいい女なんだと改めて思う。
目を閉じると後頭部に彼女の温もりを感じて、再び意識が薄暗い帳の中に溶け込むみたいに、静かにゆっくりと──闇に包まれていった……




