遠征会議
夕食後に出された蜜蝋は初めて口にする者も多かった。レーチェは「蜜焼き菓子」を今度リーファに作らせましょう、などと言っているが、蜜蝋もぺろりと食べてしまう。
メイもこんな美味しい物があったのかといった表情で食べていたが、すぐに自分の分が無くなり項垂れていたので、俺のを半分にして分けてやると、少女は大喜びでまた食べ始める。
食後の菓子を食べている間に、地の神ウル=オギトが午後にやって来て、神々の力を増幅させる技術について、話していった事を説明しておいたが、その内容についてははぐらかした。
まさか自分の自然や、神々への敬愛の念を大っぴらに公表する訳にもいかない。恥ずかしくて死んでしまう。
夕食後の定例会議、今日は初めての内容を取り扱う事になった。
「……冒険の報告は以上だな? それでは次の議題は──遠征についてだ」
遠征と聞いて少し食堂がざわつく、遠征に出た事のあるリトキスやユナは「ついに来たか」という感じで見守っている。
「今回の遠征はウリスからの提案だ。彼女は新たに作りたい弓の素材に、シャルファーの転移門でしか入手できない素材があると調べて、協力を申し出てきた訳だ。他の者も、ミスランで手に入らない素材を使った装備品を作製したい場合は積極的に言ってくれ、場合によっては素材を購入できる事もある。まあその前に、装備品についての情報を集めなければならないが」
ウリスは、よろしくお願いします、と頭を下げる。
「遠征に行った先では宿屋に泊まり、そこを拠点にしてもらう事になるだろう。──そこで、シャルファーの旅団で活動していたエウラに、今回の遠征の統率を任せたい。引き受けてくれるな?」
「──分かりました。任せてください」
その後はエウラを中心に、シャルファーで取れる素材と、それから作る事が出来る武器などについて話を聞く仲間達。エアやカムイも真剣だが、ユナやヴィナーも、風の魔法を強化する装飾品などについて、興味深そうに聞いている。
温和しいカーリアも「疾風の籠手」の話が出ると食いついていた。
「オーディス団長! 疾風の籠手があれば、私も素早く攻撃が出来るようになるのかな⁉」
少女は目を輝かせて尋ねてきた──そう甘いものでは無いのだが。
「カーリアは日頃の訓練を続けて、重い剣も振り回せる筋力を付ける事と、足腰の強化に集中した方がいい」
疾風の籠手は、武器を軽々と振るう事が出来るようになると言われているが、実際は装備している人の腕力に比例して、その効果が上がるらしい。そう説明すると少女は、がっくりと肩を落とす。
「そうなんだ……でもいいなぁ。私もシャルファーに行って『青銀甲鼬』を倒して来る」
などと言い出す始末。
まあ魔法の剣の「爆裂剣」を使えば平気だろうが……動きの素早い相手に惑わされずに戦えるかは疑問だ、──特にカーリアの場合は。
エウラは色々と、シャルファーの冒険者達が好んで作っていた装備の代表をいくつか挙げて、それらを作る為に倒す相手や、採取すべき物を丁寧に説明している。
俺の知識だと五年以上前の物だし、記憶が曖昧な部分もある。──シャルファーで錬金鍛冶として働いていた(錬金工房で日雇いの手伝いをしていた)時の事で、鮮明に覚えているのは、青と緑色に塗られた全身防具の事だろうか。
その工房の親方が作っていたのだ。攻撃してきた者に対し、風の刃を放って反撃するという鎧だ。その性能も然る事ながら、見た目も格好良く。こだわった意匠に感心したのを覚えている。
肩や腕を守る部分には攻撃を受け流す流線型が取られ、それでいながら部分部分に威圧的な刃状の突起、籠手には攻撃用に使える爪状の刃が突き出ていた。
──おっと、昔を懐かしんでいる場合じゃない。
会議はかなり盛り上がった。結局全員で遠征に行った方が良いのではないかという事になった。採取や、弱い敵から素材を手に入れるパーティと、中級以上の難易度が設定された転移門に冒険に出るパーティ、と二つに分かれての共同作業だ。
俺はミスランで留守番をする事になりそうだ。ついて行っても大した事は出来ないからである。
遠征は二日後にシャルファーに向かう事になった。七日間は一人で留守番する事になるらしい──、せっかくなのでミスランの素材屋などを見て回ったりして、休日を過ごす事にしようかと考えていたが、翌日には、その予定がご破算になったのである……




