神貴鉄鋼の魔法の剣で神の力が増幅された理由
ちょっと小難しい精神論的なお話ですが、深い意味はありません。「自然を大切にね」くらいのメッセージです(笑)。
オーディスワイアにも敬神的な面もあるんだと理解して頂ければ。──あと、彼がフォロスハートに招かれた頃のお話の回想でもあります。
三人(二人と一匹?)の前に、蜜蝋を乗せた皿を置くと、巫女達は感謝の言葉を口にした。まずは鼠(神)を抱いた巫女が、小さな蜜蝋を銀の匙ですくって、鼠の口元に運んだ。
大きな鼠は、むしゃむしゃと口を動かして蜜蝋を食べ終えると、「ちゅう、ちゅぅ」と鳴き声を上げる。
「これは素晴らしい甘味だっちゅぅ。ウィンデリア領の養蜂場から採れた物っちゅね? 年々良い物が作られているっちゅ。これは蜂蜜酒が愉しみっちゅ!」
蜂蜜酒も届けられましたが、持って来ましょうか? と尋ねると鼠が「ちゅぅ──!」と声を上げたのとほとんど同時に、通訳の巫女が「いえ、結構。それよりも水の神の儀式の件について、お話ししましょう」と言ってウル=オギトの発言を切り捨てる。
鼠は抗議の声を上げているが、通訳はまったく意に介さない。地の神を完全に無視して、蜜蝋を口にする。
「う──ん、これは美味しいですね。貴重な蜜蝋をありがとうございます……え? どうしましたか? 神ウル=オギト。早くここに来た用件を済ませてしまいましょう」
銀色の鼠を無視した二人の巫女は、自分の蜜蝋を食べては紅茶を飲む。──彼女らにとっても久し振りの贅沢だったのだろうか? ウル=オギトは、すっかり意気消沈して「ちゅぅ、ちゅぅ──」と、用件を話し始めたようだ。
「管理局から書状が届いたのでミスランに戻って来たっちゅ。水の神の儀式で使った、神貴鉄鋼製の魔法の剣はどうやら、神結晶としての力に近い効力にまで復元されるようっちゅ。刃に魔力回路を生成するだけでは、これほどの効果は得られないっちゅぅ。効果を高めるには精霊との同調、世界への傾倒、神への帰依の心が必要っちゅ」
最後に巫女が、ぼそっと「たぶん……」と付け加えた。
「ずいぶんと曖昧な説明でしたが、剣を打つ時に精霊結晶を投入したりしながら、神への祈りを捧げていた事が結果にも作用したと、そういう事でしょうか」
俺の言葉に鼠は首(見えないが)を横に振る。
「そういう上辺だけの事じゃないっちゅよ、もっと内面から湧き出る──。この世界への愛情の様な、魂から溢れ出るものっちゅ。自然への、世界への、精霊への理解と愛情が無ければ、成す事の出来ない領域──。それが神貴鉄鋼に、神々の力を増幅させる力を生み出したっちゅ」
そう言われ何だか恥ずかしくなる。確かに自分は自然への憧憬の強い人間だとは思うが。
「……照れますね、なんか。地の神にそう言われるのは光栄な事だと思いますが」
ウル=オギトは頷きながら(愛らしく)腕を組む。
「お前はミーナヴァルズにも、アリエイラにも愛されているっちゅ。もちろん私にもっちゅが。ラホルスも『黒き錬金鍛冶の旅団』には一目置いている、というような事を言っていたっちゅ。四大神に慕われるお前だからこそ、神の力を増幅させるという、偉業を成せると信じていたっちゅ」
照れながら巫女の話す神の言葉を聞いていたが、ふと思う。水の神アリエイラとは会った事が無い。もちろん神々は世界と繋がっているから、こちらが見ていなくとも向こうは、こちらを知っている、という事もあり得るのだろう。
しかし水の神には何故か、奇妙な親近感を覚えるのだ──不思議な事だが。
その事をウル=オギトに尋ねようかとも思ったが止めておく。そう言った事は本人(神)に会った時に尋ねる方がいいだろう。まあ、会わずに一生を終える方が普通だろうとは思う。
特に水の神は、風の神と同じくらい謎の多い神だからだ。顕現体を見る事もほぼ出来ない。精神体も、滅多に姿を人前に晒さない(風の神らしき精神体には会ったが)事で知られていた。
いつかは水の神とも会ってみたいものだ。どういう訳か、最近そういった気持ちが強くなる。それは自分が、ここフォロスハートに来た時の記憶、ずっと以前から持ち続けている記憶──。水の都の中にある、幻想的な建物に関する記憶と共に蘇る、可憐な少女の姿。──幻の様に、今でもたまに夢を見る。
青い髪が印象的な美しい少女の姿を。




