蜂蜜と蜜蝋
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翌日、レーチェの実家から食料が届けられた。管理局に届ける物の、ほんの一部だが、それでも旅団の規模からすれば、なかなかの量を貰えた事になる。
何台もの荷車が旅団宿舎の前を通って行き、その度に荷物の一部を置いて行く。
今日は俺とレン、ウリスが宿舎に残っていた為に、食料庫に運び入れるのは何とかなった。
「あ、すごい。牛乳に牛酪、乾酪に葡萄酒、それに酢までありますよ。野菜や果物、木の実もこんなに……。レーチェさんの実家は豊かな土地なんですね」
ウリスは興奮気味に言う。
確かに、これだけ色々な物が収穫できる肥沃な土地であるのは、管理している領主や領民の、日頃から行っている作業の賜物だろう。
ほったらかしの土地では、こうは行くまい。研究に研究を重ね、さらに錬金術などの技術も、十二分に活用しているからこそだ。
瓶詰めになった蜂蜜が三つ、蜂蜜酒が五本も。さらには箱に入れられた蜜蝋もあった。まだ蜜を取り出していない新鮮な状態の蜜蝋だ、朝方に取り出してきたばかりの物だろう。
「メイが喜ぶだろうな」
蜜蝋は、そのまま食べる事も出来るが──、少し手を加えても面白いだろう。
「あれ、これは──葡萄の焼き菓子でしょうか? 籠に入っていましたよ」
蔓で作った手提げ籠の中には、皿状に焼いた小さなパイ生地の上に、卵を基礎にした中身を入れて、葡萄や木の実を乗せて焼いた菓子が沢山入っていた。──タルトだろうか。甘く香ばしい匂いがする。
午前中は食料を運び込む作業に追われた。黙々と作業している途中でレンのお腹が鳴ったので、昼食を取る事にする。
昼食は簡単調理で済む物にした。生野菜料理にパンに乾酪を乗せて焼いたものと、焼いた腸詰めを少し。
せっかくなので、採れたての蜜蝋を切って食後に食べてみた。──甘い蜜の中に微かに花の香りを感じる。強烈な甘さかと思って口にしたが、柔らかい甘みで、鼻に抜ける芳醇な香りが癖になる。
切り分けてから蜜蝋の入った箱をしまっておいて良かった。目の前にあったら、もう一口──もう一口と、止まらなくなっていたかもしれない。特にメイに食べさせる時は注意しよう……
*****
午後はウリスとレンが宿舎内の掃除をし、二階の掃除を終えたウリスが庭にある倉庫にやって来て、錬成している俺に尋ねてきた。
「新しい弓を作ろうと思うのですが。風精一角獣の角を二本使って作りたいのですが、風精一角獣って、都市シャルファーの転移門にしか出現しないって本当ですか?」
「一角獣……ああ、あのひん曲がった角を持った犬か。確かに、シャルファーの中級難度くらいの転移門先に出たような……弓はちょっと前に新調してなかったか?」
弓を造る職人は正に専門家だ。俺には作れない物の一つが弓だ。形を真似る事は出来るが、性能は段違いの(性能の悪い)物になるだろう。
「あの弓も最初の物よりは良いですし、団長にも錬成強化で強くしてもらえましたが……、あれでは駄目なんです。これからもっと難易度の高い転移門に挑むには、あれでは駄目なんです」
珍しく彼女が熱く語った。俺は「よし」と頷くと、シャルファーに遠征に行く事にしようと彼女に言い、冒険から仲間達が帰って来たら早速、計画を立てる相談をしようと決めた──
そんな時にウリスが玄関を叩く音がしたと言って、庭を駆けて宿舎入り口の扉を開けに行く。──さすが狩りで耳を鍛えた猟師でもある狩人だ。
倉庫の中に居た俺には、来客の音は聞こえなかった。通りに面した玄関にも、呼び鈴を付けるべきかもしれない。
錬成作業を終えて素材をしまい、客を見に行こうとすると、ウリスがすっ飛んで来た。大慌ての彼女を見たのは、これが初めてだ。
「なんだなんだ、素っ裸の強盗でもやって来たのか。わざわざ扉を叩くとは、親切な強盗だな」
言いながら素っ裸の強盗の姿を想像すると、ただの変態だった。




