お嬢様冒険者レーチェ・ウィンデリア
「ところで何で俺の名前を?」
俺が問うと高慢女は、「まだ言っていませんでしたか?」と言ってから事の経緯を説明し出す。
彼女は「レーチェ・ウィンデリア」だと名乗った。彼女はフレイマへと続く街道の途中にある、クラレンスの街の貴族らしい。その街で侍女が「ミスランで『四大精霊の加護』の高位錬成を行って、昇華錬成までした希代の錬金鍛冶師が居る」という噂を聞いたのだという。その情報を確認すると、少女(ユナの事だろう)が「オーディスワイア」の名を口にしたのだという。
俺は「なるほどな」と相槌を打ちながら一枚の紙を取り出して、簡単な誓約書を書き記し、それを女に見せる。
「なんですの……?『以下の者は聖銀鉄鋼の錬成を行うに当たって、例え錬成に失敗をして錬成元を消失したとしても、錬成分の作業費を支払い、無くした物の対価を求めない事を約束する』……なんですの、これは?」
見ての通りだが、と言いながら錬成作業分の費用は素材と作業賃の二つで二千八百ルキだと、名前と金額を空欄に書くように言う。
「分かりましたわよ」
と低い机の前で前屈みになり、腰を後ろに突き出して書く女の尻を確認すると、やはり尻の形がくっきりと浮き出ており、黒い密着した服からはみ出た尻肉が見えていた。
「エッロ……」
俺は相手に聞こえ無いくらいの小声でそう漏らし、横から女の腰つきを見て若干ムラムラしてきた気持ちを落ち着けつつ、効果付与錬成へ集中する方向へ、その沸き上がるものを持っていこうと努力する。
「書きましたわよ……何を屈伸していらっしゃるの?」
「気にするな、ただの準備運動だ」
レーチェはふうん、と言いながら成功報酬はいくらですの? と尋ねる。今にも「ふふん」と鼻を鳴らしそうな、相手をバカにするみたいな表情をしている──でも美人はやはり美人だった。
「片方で二万五千、両方で五万ルキ」
俺が言うと「いいでしょう」と言って、侍女に金を用意するよう促している。その横顔は何故だか好奇心に満ち、きらきらと目を輝かせている。
本当に、この女──顔と体だけは好みなんだがなぁ……
侍女達が何か通りの方でわちゃわちゃとやっている内に、素材保管庫から錬成に使う「硬化結晶」と「不銹結晶」を二つずつ用意する。
お嬢さんはわくわくしているご様子で、俺が錬成台に聖銀鉄鋼の盾を置くのを興味津々で見てくる。
「これはあんたが使うつもりなのか」
「あんたではありません、レーチェ・ウィンデリアですわ」
彼女はむっとした顔をしてから胸に手を当て、私はミスランでも有名な冒険者になってみせますわ、と高らかに宣言する。
「いやぁ……もうなってるんじゃないかな。エロい格好で探索に行く冒険者として」
「まっ、またこの格好をエロいと仰いましたわね⁉」
彼女は恥ずかしがってか、頭に来た為か、顔を赤く染めながらぷりぷりと怒る。何回転移の門を潜ったのかと尋ねると、まだ三回だと告げる──駆け出しだという認識はあるようだ。
「で、ですが。私はあの『金色狼の旅団』の元団長リトキス氏から、戦いと探索の技を学びましたのよ、駆け出しとはいえ、すぐに上に上がって見せますわ」
彼女の根拠無き自信はそこだったのかと、少し納得してしまった。
「へぇ、金色狼のリトキスか。なるほど、自信だけはたっぷりな訳だ」
「あ、あなた、今、私を侮辱しましたわね⁉」
指を突き出して言う彼女を「わかった、わかった」と宥め、彼女の腕や肩の筋肉の付き方を確認しながら、レーチェが武器を手に、相当の訓練している事は身体を見れば分かる、と言ってやった。
「そういう事も分かるようになるんですの?」
「だからお前は駆け出しなんだよ、俺だって昔は旅団にだって入っていたんだからな」
そう言って彼女が怒り出す前に、唇に指を当てて静かにするように示す。




