神々、あるいは世界への奉公
「メリッサさんは仕事の鬼」というサブタイトルの方が良かったかな(笑)
「水清めの儀式」で起こった、新たなる神への精霊力の供給についての報告書を読み終えると、メリッサは次に、建築に関する優遇措置の執行について書かれた文書を渡してきて、その内容について暗唱して聞かせてくれた。
彼女が、いかに今回の事を重く受け止めているかが伝わる。
それはそうだろう。今まで不要とされてきた物が有用となり、それが最も重要な行程に関わるものだったのだから尚更だ。
「今回の神貴鉄鋼の錬成品について神々へ使者を送り、ご意見を伺う事もしています。これから神貴鉄鋼は神々の力を増幅させる目的にのみ使われる、と考えて下さい」
彼女は断定的に言う。
我ながら、とんでもない問題に腕を振るってしまったようだが──後の祭りだ。腹を括るしかない。
「ともかく、あなたの魔法の剣の作製技術のお陰で、新たな転移門を開放する効率が上がる訳ですから、これはフォロスハート全体にとっても、大きな飛躍です。それを考慮しての建築作業への優遇措置であると理解して下さい」
鍛冶屋の建て直しの短縮が報酬と言う訳か、工期を短くする代わりに、神貴鉄鋼の錬成に力を入れろ、と言われている気しかしないな。
「しかし、建物の増改築にまで口を出し、あまつさえ権力を振り翳して、建築現場の作業員を増やすだなんて、そんな横暴が許されるのか?」
俺が言うと彼女は表情で「何を言っているのですか」と訴えてきた。
「公的な利益の為に権力を使うのが、公的権力側に立つ者の義務です」
彼女は「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔をして見せる。つまり俺を公的利益の為に使い倒す気なのか──やだ、この人。絶対上司にしたくない。
俺はぼそっと「部下は大変だろうな」と漏らしたが、彼女の耳には入らなかったようだ。
「この神貴鉄鋼の錬成品を使えば、『大地の接合』にも使えるのではないかと、私は期待しているのですよ。もちろん課題が多いのは理解していますが」
フォロスハート以外の大地に居る精霊や、神々の中枢がなんなのか、どこに居るのかを突き止めなければ、力を与える事も出来ないだろう。
各大地に居ると思われる、それらの存在に呼び掛けるには、やはり四大神の力が必要になるかもしれない。
メリッサは伝えるべき事を話し終えると、俺が手渡した硝子小鉢の中の小さな植物園を観察し始める。彼女にもテラリウムの良さが伝わると良いのだが。
「硝子の中に小さな自然……管理局の施設には、『都市の中にも自然を』という事が求められて、公園を設置したり、鉢植えにした植物を観賞する慣習が昔からありますが……。これは何だか可愛らしい物ですね」
「机の上にも飾れるからいいんだ。霧吹きで水を与えてやれば長持ちするし、愛着も湧く」
彼女は頷き、それでは頂いていきますね、と言って帰ろうとする。
「忙しそうだな」
俺の別れの言葉に彼女は振り返り、物騒な予言をした。
「鍛冶屋が新しくなれば、あなたはもっと忙しい目に会いますよ。鍛冶場を手伝う者を雇い入れる事をお勧めします」




