神貴鉄鋼を使った武器の錬成
シリーズ名『方舟大地フォロスハートの物語』から《外伝》と登場人物の設定を読む事ができるものを投稿してありますので、そちらもよろしくです~。
「今回は神貴鉄鋼の短剣に、水の力を宿して欲しいっちゅよ。噂の魔法の剣でなくても構わないっちゅが、出来れば魔法の剣の製法で、水の力を封入して欲しいっちゅ」
そう言うと今度は後ろに控えていた巫女の一人が前に出て、懐から布袋に入れた水の精霊結晶を取り出した。
俺は、神貴鉄鋼を使った武具を造っていたという鍛冶師の手記を読みながら、その作業の様子を頭の中で思い描く。──通常の作業工程と変わらない部分が多いが、四大神への祈りを捧げながら鎚を振るう、という部分が、この鍛冶師らしいと感じる。
精霊結晶を加える時に、その属性の精霊石を炉に投げ入れてから火に武器を投入する、この部分が新しい変更点だ。その程度なら問題ないが、──意味はあるのだろうか? おそらく儀式的な意味合いを持たせているのだろう。確かに精霊石を炉に入れれば、その力は火によって解放されるが、それを精霊結晶を加える前の作業工程に加えるとは、なかなかの慎重さだと素直に感心する。
余った神貴鉄鋼は自分の物にして構わないと言われ、俺は二つ返事で「分かりました、やってみましょう」と応えていた。
そう返答すると赤い座布団の上に座った銀色の鼠がちゅう、ちゅう、と鳴く。
「それは良かったっちゅ、『水清めの儀式』も、これで新しい短剣で行えるかもしれないっちゅ。水の神アリエイラも、きっと喜ぶっちゅ──」
巫女はそう言って前金を護衛に出させ、出来た物は管理局の方に預ければ問題ないと説明した。
リトキスが用意した紅茶を口にしている巫女、どちらもまだ若いが、さすがに巫女に選ばれるだけあって独特の雰囲気がある。
「それはそうと、旅団を立ち上げたっちゅね? かつての勇姿が見られないのは残念ちゅ。ゲーシオン武闘大会で見せた、リゼミラ対オーディスワイア戦は未だに、最上の戦いとして記憶に残っているっちゅ」
……ああ、あの戦いは白熱したが、結局俺が敗れたのだ。──剣の一本を弾き飛ばしたと思いきや、それは囮で、もう一本の剣で腹を打たれて倒れ込んでしまった。刃引きの剣を使用していたとはいえ、容赦の無いあの一撃……あの女は鬼だ。
その後は少しウル=オギトと話をした。気さくな神様は「黒き錬金鍛冶の旅団」の発展を期待し、多くの優秀な冒険者が誕生するのを心待ちにしていると言ってくれた。
深刻な話はしなかったが、神は常にこの浮遊する大地の困難な状況を知っているのだ。会話の節々に崩壊した世界の中で生きる人々の困難を、憂いているのが伝わってきた。強い戦士の登場を待ち望んでいる、この新たな旅団からそれが叶う事を願っている。地の神はそう告げて、都市ゲーシオンに帰る事を告げる。
「この度は神ウル=オギトの依頼を受けて下さり、ありがとうございます。あなたのご健勝と旅団の方々の無事を祈ります」
巫女は一礼しながら述べて、一団と共に去って行った。
残された俺は神貴鉄鋼を取りに客間へ戻り、鍛冶屋の手記をもう一度読んでみた上で、午後にでもさっそく鍛冶場で作業に取り掛かる事にした。
昼食を一人で食べてから道具を揃えて、まだ取り壊し中の一階建ての民家を確認してから、鍛冶場に入る。
水の力のみを封入した魔法の剣なら──、何とかなるはずだ。
道具を揃えた事を確認し、炉に入れる素材や剣に使う素材を順番に並べて、炉に火を入れる。
──水や綿織物なども用意したが、それほど時間は掛からないはずだ。高温を必要とする金属では無く(それでも充分熱いが)、燃結晶一つを使えば溶かせると手記にも書かれていた。
四大神への祈りを捧げながら、神貴鉄鋼を溶かして金鎚で打ち延ばし、不純物を取り除いていくと、黄色に近い火花や真っ赤な火花が辺りに散っていくが、他の金属と違って圧倒的に火花が少ない。
それを何度も折り畳んで剣の形に整えながら、魔力鉱石を炉に放り込み、魔力結晶を剣に加え魔力回路を生成する作業に入る。──この時は火の神への祈りを捧げ、続いて水の精霊石を炉に投入すると、さらに慎重に水の精霊結晶を剣に加えて、魔力回路に浸透させていく。
──この時は水の神に祈りを捧げつつ金鎚で打ち、短剣を完成させていく。
熱く焼けた刃を水に漬けて冷まし、引き上げると、不思議な事が起こっていた。
剣の根本から中心部に向かって、浮き彫りの模様が現れたのだ。刃の両面に現れた装飾は、両面が対称になっていて、非常に美しい構成で造られているが。──俺が意図してやったものではない。
水の神の力だろうか。会った事も無い神ではあるが、フォロスハートでは、そんな事は関係が無いのだろう。
短剣は儀式用の物だと聞かされていたが、出来上がった物に現れた装飾は正に、儀式的な用途に用いられるように意匠されていると感じる。
──神への新たな畏敬の念を感じつつ、この日の作業はここで終える事にした。
いつもの俺なら、まだ神貴鉄鋼が残っているのだから他の剣も作ってみよう、とでも考えるところだが。神の奇跡を見せられた、高揚した気持ちの余韻に浸りながら後片づけをして、充実した気持ちのまま宿舎に戻るのだった。




